第2話 私(2)
しんと公園は静寂に包まれた。
私とその男子は見つめ合う様なかたちで数秒間静止していた。
私はハッと我に帰りさっきの醜態を思い起こす。
見られた?聞かれた?でも、さっきまで絶対に誰も居なかったはずなのに…。てかあの人も叫んでなかった?
急に恥ずかしくて仕方なくなった。羞恥心が襲いかかってきて顔が熱くなる。今の私なら額でお湯が沸かせそうだ。
「あの──」
「ごめんなさい!!」
その人が何かを言う前に私はそれを遮って駆けだした。
階段を猛ダッシュで下り、さっきの恥ずかしい思いを払拭するように、ただひたすら走った。
何で私あんなことしたんだろう…。きっと見落としてしまったんだ。気付かないで…私ったら本当にバカだ。穴があったら飛び込んでしまいたい!
思わずまた叫んでしまいそうになるのを堪えながら私は家路についた。
随分と走った気がする。
家の近くの交差点にやって来た途端、それは唐突に訪れた。
ぐらりと視界が揺れる。
まず私は酷い倦怠感に襲われた。そんなに走ったっけと不安になりつつ壁に寄りかかると、次にとてつもない頭痛に見舞われた。ズキズキと痛む頭に耐えられなくなって地を這うような体制になる。他の事を気にしている余裕などなかった。
どうしよう…。痛い…。苦しい…。
「……すか?」
声が聞こえる。
「あ……だい………です…?」
誰?
うまく聞き取れない、頭がボンヤリする…。私、どうなっちゃうんだろう…。
酷い頭痛がガンガンと脳を叩いて意識を奪っていく。
体が私の意識に関係なく動いている。今私の身に何が起こっているのか、確かめる術は残念ながら無かった。
そうして、瞼は閉じられ私は意識はフッと消えた。
一体、どうして…?
***
ボンヤリと視界が開ける。
何があったんだっけ?
何だか変な夢を見ていた気がする…。
上体を起こして周りを見渡す。私の部屋だ。そのはずなのに…、この違和感はなんだろう?
それに一体誰が?
どうやって私の家まで?
比奈ちゃんはこの時間まだ塾だし…。
まぁいいか。
ベッドから起き上がる。まだ倦怠感は残っているけど先程までではなかった。
手すりに手をかけゆっくりと一階に降りる。
階下ではテレビのバラエティーでよく聞くMCの声と両親の笑い声、それに混じって一つ聞き覚えのない声が聞こえる。
誰だろう。警戒心が高まる。
そりゃ助けてくれたのだからお礼はすべきだけど、ラフすぎない?
そうして階段を下り終えそちらを見ると、そこには一人の男子がいた。
知らない人だ、でも私は知っている。
何故ならついさっきあそこの公園で目を合ってしまった、私の恥ずかしい所を見られたからだ。
「…なん、で?」
「あら、起きたの?大丈夫?倒れたって聞いたけど?病院には行かなくていい?」
母親の質問責めに逢いながらも私の視線はその男子に釘付けだった。
「待ってお母さん!私は大丈夫。それより、あの人誰?何でここで優雅にご飯たべてるの?」
「何でって、そりゃ当たり前でしょだって─」
息を呑んで次の言葉待つ。それから聞かされたのは衝撃の言葉だった。
「家族なんだから」
─────は?
家族?どういう事?
「それよりちゃんとお礼言っときなさいよ。あなたをここまでわざわざ運んでくれたんだから」
そう言って母は台所に戻っていった。
私はそこに立ち尽くしていた。どれだけ思考を整理しようとしてもモヤモヤが一層深くなっていく。
私には兄も弟もいなかったはず…。隠し子がいたとでもいうの?でもどうして今になって…。
私はいてもたっても居られなくなって彼に近寄る。それなら直接問い質してやろう。
彼はこちらを見ながら呑気に味噌汁を啜っている。
「ねぇあなた、名前は?」
「………」
味噌汁を飲み込んで、彼は答えた。
それが当然であり、変えようの無い事実であると告げるように。
「
私と同じ名前を。
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