ガリアの戦慄

 辺りは和気あいあいとしていて、多くの冒険者が集っている。


 ここは、三人が住む家の近所にある酒場。その入り口に張り出されているクエスト募集掲示板前にて。


 マイキーは誰に向けてか、中指を立てる。


「うぃ~wwwwwww サブタイトルで今回こそシリアスだと思いましたか?『確かに一話目はヤバかったけど、どうせその後すぐ真面目になるだろ』とか思ってましたか?? 残念、この小説はシリアスのシの字はおろかイと書き間違えてホメロスの叙事詩『イリアス』になってる始末ですからねぇ」


「訳分からん言い回しで読者に喧嘩を売るな!! あとマイナーなネタは慎め!」


「くっそォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!! あの子マジ可愛くね? 俺のポケットモンスターがスタンダップしそうだわ」


「僕の約束された勝利の剣エクスカリバーも黙っていませんよ」


 あぁ、もう死んでくれ……。サユキは周りから白い目で見られながら、服の裾をぎゅっと掴んでそんなことを思う。


「そもそも、異世界で冒険なんてありきたりじゃねぇか。それなら股間をスタンダップさせて、他作品との差別化を図ろうぜ」


「努力の方向が間違ってんのよ! ……別に、ありきたりでもいいじゃん。それが私たちの物語なんだから」


 サユキがドヤ顔でそう言い放つ。


 心に響いたのか、マイキーはハッとしたように口を開いた。


「それなら、『ありきたりな下ネタで世界最強』とかどうでしょう?」


「ありきたりな下ネタってなんだよww」


「そこじゃないでしょ! 私がいいこと言ったんだから少しはシリアスな雰囲気になりなさいよ!?」


 サユキも一緒になって騒ぐ。やかましい三人である。


「まぁ、あの一話目の出来で二話目を投稿するなんて創造神バカも随分と強く出ましたねぇ」


 ……そう。大して好評でもないのに、作者アホは調子に乗って続きを書いてしまったのだ。開幕早々、マイキーの煽りが読者様に炸裂し、およそ読者の120割がブラウザバック連打をかましていく。


「120割とか算数も出来ないのかねぇ、作者あいつは」


「サユキは何かと手厳しいですねぇ。そんなんだから胸が育たないんですよ?」


「か、関係ないでしょ。それに小さい訳じゃ……」


 サユキは胸の辺りを押さえる。ライデンが哀れみの目を向けた。


「これだけは真面目に言わせてもらう。多分、俺の方があるぞ」


「……」


 サユキは黙り込む。それに気がついたのか、二人は話題転換を必死に画策し始める。


(あれはマジでヤバイやつですよ! ガン萎えしています)


(ガン萎えしてるのは胸だけにしとけってか)


(つまんな)


(殺すぞ)


 いつも全裸になったり女の子を売春しようとする(失笑) 彼らだが、なんだかんだで優しくて常識人なのだ。


 それが、この目配せから如実に現れていると言っていいだろう。


「ちょっと待て!! この変態クソ野郎共が優しくて常識人なら私はなんですか!? 神ですか!?  ヤ●ウ●とかそこら辺!?」


「地の文と会話すな! あとヤ●ウ●はガチで怒られるからやめとけって!!」


 ……冒頭でサユキが言っていた『私たちだけの物語』も、この先続いていくかどうかは全く不透明であろう。


 タブーに触れた作品チ●コに、未来は無いのだから──。


「さて。あの男の子が目覚めるまでに俺たちはひと稼ぎしないとな。金無いし」


 我に返ったように、ライデンがそう述べる。マイキーも話を脱線させてしまった自覚があるのか、掲示板の求人情報を目で追い始めた。


「そうですねぇ、どれどれ……。今日のクエストの中では『3時間以内にクマを撃退!報酬30万ドール-29万9880ドール』が最も高いのでは?」


「それ120ドールじゃねーか! そんなんう〇こ入りう〇こ 〜う〇こを添えて〜 ぐらいしか作れねーよ!」


「何それ臭そう(小並感) 」


「もやしぐらいは買えると思いますけどねぇw」


「小説で『w』はさすがにあかんだろーが!」


「ってかうるさすぎるわ!! 黙れ!」


 ガヤガヤするギルドの中で、二人は更にそれを上回るやかましさで騒いで行く。周りの人はドン引きだ。


「あ、ドールってのはこっちの世界の通貨だね。もちろんフィクションだよ」


「用語の解説が直球すぎるだろ……」


「しょうがないでしょ。こういう説明もしておかないと、二人のふざけた話しか読者さんの耳に入って来ないんだし」


 サユキがそう言うも、二人からの反応が返ってこない。


 普通にスルーしやがって……とサユキは苛立ち、そのことを咎めようと口を開いた。


「なんで無視──」


「ちゅかれた!!」


「さて、もう疲れたので次話に続きますよ!」


 マイキーが元気にそう言う。それを聞いて、サユキは時間差で反応した。


「ちょっと待って! まだ私たち何もしてないし物語も全く進んでないけどいいの!?」


「だって疲れたですし」


「まぁそれは仕方ないね」


「退くのはっや!」


 横で見ていたライデンがノータイムで突っ込む。結局、本質的にはサユキもマイキーも変わらないということを思い知らされた。


「というわけで、次回『蜂蜜を股間に塗りたくらないか?』ですお楽しみに!」


「既にタイトルで先が思いやられる!!」


















「ってかお前ら貧乳いじりしたこと忘れてねーからな」


「!?」


 ※次回に続く(好評だったら)

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