第3話

「ちょっと、あさ美! 何で浅波部屋に入れたのよ!」

 羽衣は朝っぱらからあさ美を責めた。


「岬先輩、ごめんなさい。夜中物凄く冷えたので流石に可哀そうだなと思って部屋に入れちゃいました」


「こんな変態に優しくしたら反省しないじゃない! 氷点下の中に置いとけば変な気も起こさないでしょ」

 羽衣は腕組みをして不満気に俺を蔑視した。


「羽衣、その、昨日は悪かったな? あと、これ朝飯だから」

 俺は羽衣にクッキーを四角く固めたような固形食品を2本渡した。


「またこれ? 美味しくないし、少なくて食べた気しない」


「量は少ないけどカロリーはある、辛抱してくれ」


「で? 今日は補給品取りに行くって?」

 俺の手のひらから渋々食料を受け取って羽衣が聞いた。


「ああ、此処から一時間て所の指定された地点に行く、ドローンが置いて行った荷物が雪で見えなくなる前に回収するぞ」




 雪原が陽の光を反射し眩しいので俺達3人はゴーグルを装着して2台のスノーモービルを走らせていた、荷物の位置を知らせるGPSの鳴動が速くなり目的地はかなり近い。俺とあさ美はスノーモービルを一旦停車させ双眼鏡で辺りを確認する。

 羽衣は俺のスノーモービルから降り背伸びをしている。


「ねぇ、あったの?」

 羽衣はまだ朝だと言うのにダルそうに聞いた。


 俺は彼女に絡まれないようにそれを無視して双眼鏡を覗いていると、後頭部に軽い衝撃を感じて振り返ると顔面に雪玉が当った。


 羽衣は雪玉を握り、笑っている。


「お前な、小学生じゃないんだから真面目に探せよ!」

 俺は若干イラついて羽衣に言うと、羽衣は自分の足元に作り置きしていた大量の雪玉を俺とあさ美に連続して投げつけた。


「ちょ、岬先輩、止めて下さい!」

 あさ美も雪玉を握り反撃する。


「お前ら、止めろって!」


「うるさい、変態のくせに!」

 羽衣は雪玉を投げるのを辞めない。


 俺は羽衣が顔面目掛けて投げ付ける雪玉を両手でガードし彼女に近づくと、今度は側頭部に雪玉が当る。


「浅波さん、昨日私の裸見たお返しです!」

 あさ美も俺に攻撃を仕掛けて来た。2人は俺に雪玉をどんどん投げつけるので、俺は羽衣とあさ美を次々に抱き抱え、雪原に放り投げた。


「冷た」

 羽衣は顔面を雪だらけにし立ち上がり、俺にタックルをして来たが、こんな小娘1人に倒される訳がない。が、あさ美が俺の膝裏に蹴りをいれ胸を押し雪原に倒されると2人に大量の雪を掛けられ、俺は真っ白になった。


 羽衣とあさ美は雪原に座り込みゲラゲラと笑ったので、俺も釣られて爆笑した。


 笑い疲れたあと、少し早かったがそのまま此処で休憩をする事にして、出かける前にスノーモービルのエンジンに括り付けていた温まった缶飲料を2人に渡す。俺はスノーモービルのシートに横に腰掛けウーロン茶のタブを起こし湯気の出る缶に口を付ける。白銀の大自然の真ん中で少女2人とお茶を飲む。晴れた青い空に冷え切った空気、どこまでも足跡1つ無い雪原…… この地球上に3人しかいないのでは無いかと錯覚してしまいそうな気分になる。


 向かいのスノーモービルに座っていたあさ美が、おもむろに雪原を眺めながら立ち上がると叫んだ。


「浅波さん、あそこに人が居ます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る