閉ざされた世界
第1話
グレーの空の下、スノーモービル2台が雪原を走る。辺りは雪で一面真っ白だ、除雪がされていない道は路肩との境界が分からなくなり危険で何度か川に落ちそうになり神経を使う。鼻の中の水分が凍る、気温は氷点下10度以下だろう、厚着をしているが流石に長時間寒風に晒されると体温が下がる。
俺は粉雪が舞う中、スノーモービルを停止して2人に言った。
「そろそろ日も暮れるし、今日の移動はもう辞めて空き家に泊まろうか?」
羽衣とあさ美は嬉しそうに笑い頷く。空き家なら幾らでもある、消えた500万人分の廃墟だ、俺達3人は適当な家を見つけ勝手に入る。
家の中は廃墟と言うよりは急に家主が旅行にでも行ってしまったような生活感があった。人の家の中を勝手に漁り灯油のポリタンクを発見した俺達は北海道の家なら高確率である灯油ストーブを探す、2階に上がり部屋のドアを開けると子供部屋があり中に電源の要らない反射式の灯油ストーブを見つけた俺は羽衣とあさ美を呼び灯油を補充し2階で暖を取る。
自衛隊の戦闘食料を雪と一緒に鍋に入れストーブの上に乗せる、鍋の雪は直ぐに溶けるので部屋の窓を開け、屋根に積もった雪を補充し水位を上げて行く。ホカホカのご飯にあり付けるまでの30分がじれったい、ストーブの天板はコンロほどの火力は無い、じわじわと温まるまで待つしかない。
子供部屋は狭く防寒着が要らなくなるほど直ぐに暑くなり皆、薄着になった。
「お風呂に入りたい」
羽衣は口を尖らせて俺に言った。
「無理な事言うなよ」
俺は目も合わせず素っ気なく答える。
「せめてシャワーでもいいから浴びたいですね」
あさ美もじっと俺を見る。
「無理な物は無理、少ないお湯でシャワーなんかしたら寒いだけだぞ」
「浅波! 何日お風呂に入って無いか知ってるの? 10日だよ10日!」
羽衣は俺に向かって声を荒げる。
「中世ヨーロッパの人は死ぬまで1回も風呂に入らなかったらしいぞ」
「私、中世ヨーロッパ人じゃないもん!」
羽衣をなだめる為、取り敢えず食えと俺は温まった食料を鍋から取り、2人に渡した。
羽衣は学習机の椅子に座り、レトルトパウチを破りスプーンを中に突っ込んで五目御飯を食べ始めた。あさ美も部屋のベッドの上に腰掛けパウチを開ける。
「飽きた」
羽衣はいちいち俺を睨む、相当この生活にストレスを感じているようだ。
夏祭りの夜、凪を倒した手ごたえは無かった、羽衣弾の威力は凄まじく、凪とその周辺を吹き飛ばした。だが凪と麗香の死体は発見されなかった、奴はその場からは消えた、だが死んではいない。あの日、円山の部隊に多くの死者が出て人員不足に陥り部隊は再編成出来なくなり、俺達は円山を放棄した。
3人は無言で食事をした。最近はストレスと代り映えのしない生活に会話もめっきり減って、事あるごとに羽衣は俺に絡んでくる、あさ美は悪態は付かないが、最近は機嫌が悪そうだった。
食料を食べ終わると最早する事も無く部屋はしんと静まり、ストーブの淡いオレンジ色の火の明かりとやけに白い光を放つLEDランプが3人を照らす。
「岬先輩、そのお湯で体拭きっこしませんか?」
沈黙を破り、あさ美は食料を温めたお湯を指さして羽衣に言った。
「いいかも」
羽衣はあさ美の提案に同意した。
「浅波、部屋出て、私達体拭くから」
羽衣に促され俺は防寒着を着て廊下に追い出された。
「浅波、のぞくなよ」
「誰がのぞくか!」
俺は子供部屋のドアを閉め、ドアに寄りかかって終わるのを待った。
子供部屋からは2人の話し声が聞こえた。
「きもちいいーっ」
「拭くだけでも違いますね」
「あさ美、胸でか」
「岬先輩こそ、肌凄く白いし細くて羨ましいです」
2人のはしゃぎ声を聴き、少しはストレス発散になったようだと安堵し、明日以降の計画を練っていると、子供部屋から2人の絶叫が響いた。
俺は銃を抜き部屋の扉を開けると2人の少女はパンツ一枚でベッドの上に体を寄せ合いながら立っていた。小さい胸と大きい胸に思わず視線が行ってしまい2人は更に悲鳴を上げ羽衣は胸を隠しながらジャンプして俺の腹に飛び蹴りを食らわせた。
俺はあっけに取られて廊下に蹴り出され、羽衣が更に攻撃するそぶりを見せたので後ずさりすると床が無くなり、階段を転げ落ちた。
「信じられない、ホントに変態だったんだ!」
羽衣は部屋に戻りドアから首だけ出して言った。
「浅波さん、見損ないました!」
部屋の中からあさ美が叫ぶ。
「いや、ちょっと待ってくれ、あんな悲鳴上げられたら魔物でも出たかと思うだろ!」
「ねずみが出たから叫んだだけです、いきなりドア開けなくてもいいじゃないですか!?」
あさ美が珍しくキレる。
「済まない、これは事故だ、許してくれ」
部屋のドアが怒りを込めた大きな音を立てて閉められる。俺はほとぼりが冷めるまで少し時間を置くと、ゆっくり階段を昇り部屋のドアを恐る恐るノックしてみた。
中からは返事は無く、ドアノブをゆっくりと回して、ドアを開けようとすると重みがあり開かなかった。変態を部屋には入れてはくれないようだ。仕方なく俺は一階に降り、居間のソファーの上に寝転がりクッションを3つ布団代わりに体の上に乗せて眠りに就く。明日、彼女達にどんな顔で会えばいいのか…… そんな事を考えているうちに瞼が重くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます