第6話

「浅波!」


 羽衣が俺を見つけて飛びついた。


「良かった、無事で」


 羽衣は安堵の表情を浮かべながら俺にP226を手渡した。


「羽衣こそ無事で良かったよ」


 俺は嬉しさの余り羽衣に抱き着いた。そして直ぐに勢いで彼女に抱き着いてしまって羽衣が怒るのではないかと腕を緩めると、羽衣は逆に俺を強く抱きしめて言った。


「やっぱり浅波は私のパートナーだ…… よし、早く奴らを倒しに行こう!」


 羽衣は俺の手を引っ張ると、にっこりと笑いかけ、魔物の湧き出す方角へ走り出した。


 薄暗い林の中を駆け、宇垣の元へ戻る途中で数匹の野弧を羽衣弾で倒し、仲間を救うことが出来た。宇垣もそう長くは持たないだろう、参道を逃げてくる人の流れに逆らい祭壇のあった場所まで戻ると宇垣は片膝を付き、地面に綾乃の力が消えそうに僅かに黄色く光る刀を杖の様に突きさし、両肩で荒く息を付きながら言った。


おせえぞ、浅波」


 宇垣は土埃に汚れた姿で笑っていた、服には所々血が滲み戦闘が過酷だったことを物語っている。


「宇垣さん! 大丈夫?」


 羽衣は叫んだ。


 宇垣はゆっくりと立ち上がり刀を構えて言った。


「羽衣ちゃん見たから元気になったぜ」


 俺は言った。


「宇垣、もういい、後は俺達に任せて引け!」


 羽衣は俺の背中に手をかざし力を送り始める。高熱が出ている様な感覚がして手にしているハンドガンが赤く輝く、ハンドガンを構え宇垣に迫る野弧を狙うとスローモーションが始まる。引き金を引く、簡単だ。


 俺達は最強だ、そんな気がした。次々に現れる魔物を撃ち、倒す。ここはホームグラウンド、弾も潤沢にある。背後から援軍が現れ援護射撃が加わり魔物を逆に包囲し、破壊された防壁に押し返す。俺とあさ美、宇垣と綾乃が時間をかせいでいた甲斐があり何とか戦力が整った。


 その時、凪と麗香が包囲網の囲いの中に入り皆の注目を浴びる。おいしい所だけ持って行くつもりなのか? こんな時にカッコつけてる場合かよと誰もが思った瞬間、凪は麗香の力を帯びた空気の刃を俺達に向け放った。


 周りを取り囲んでいた者達は胴体を切り裂かれ、全員が一瞬で死んだ。


 俺と羽衣はその攻撃を体験済みだった、張り詰めた空気の振動に咄嗟に体が反応し、間一髪の所で地面に飛び込み攻撃をかわす。


「何で凪が……」


 俺は意味が分からなくなった。


「嘘でしょ……」


 羽衣は伏せたまま目を見開き、震えた小さな声で呟く。


 凪は崩れた防壁の前で両手を広げ殺された能力者の力を吸い上げている。


 俺は立ち上がり凪に向けてハンドガンのトリガーを引いた。羽衣の力は剥がれ、ただの弾丸を奴に撃ち込む。人間相手に能力弾はいらない。


 弾丸は凪の心臓を貫通したはずだが、奴は平然とそこに立っている。


「雑魚か…… 君達は何て逃げるのが上手いんだ、感心するよ。特に浅波、君は結衣クンが死んだあの時も生き残っていたっけ? さながら死神だな」


 凪がこちらを見て笑う。


「君達はスケート場で死んで貰うはずだったんだが、中々しぶといな」


「お前はあの時の魔物なのか…… 凪、何故こんな事をする」


 俺は怒りに打ち震えるのをグッと堪え、心の中で落ち着けと連呼した。


「何故? 君に言った所で分からないだろう」


「麗香、お前も人間では無いのか?」


「私も、あなた達も同類でしょ? それとも能力者が人間じゃ無いって言うんなら、代行者のあなたもそうなんじゃないの?」


 麗香は呆れたと言わんばかりに、天を仰いだ。


「同じだと? だとしたら何故お前は凪と行動を共にする?」


「私、彼の子供を産むの」


 羽衣は叫んだ。


「能力者は子供を産めないじゃない!」


「そんな事未だに信じてるなんてお目出たいわね、毎日飲まされている薬調べてみたら?」


 凪は言った。


「君達は何時も僕の邪魔をするのか、雑魚の分際で! もういい、死にたまえ!」


 凪が両腕を振り空気の刃を次々に放つ。二度と避けられないであろうその攻撃に合わせ、俺は話の最中に背中に隠していた真っ赤に輝くハンドガンを奴に向ける。


 最大パワーの羽衣弾を凪に放つ。言葉を交わさなくても出来る連携プレー、覚醒の意味が分かった気がした、気持ちが一つになるから出来るんだと。


 羽衣弾は凪の攻撃を跳ね返し、奴の眼前で炸裂した。



 

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