第4話
あさ美は少し化粧をしていた。メガネ越しの瞳を閉じたそばかす顔が可愛くて、俺は花火で反射する唇に吸い込まれそうになる。ちょっと待て、15歳だぞ、駄目だろ、俺は自分に言い聞かす。
「あさなみさん……」
彼女は瞳を閉じたまま囁く。
あと10センチでキス出来る距離だが、俺の体はそれ以上動かない。あさ美はゆっくりと片目を開ける、花火の光で彼女の頬が赤らんでるのが暗がりでも分かった。
「してくれないんですか?」
もう片方の瞳もゆっくりと開け、じっと俺を見つめると、あさ美は両手で俺の頬を挟み唇を近づける。
二人の唇がもう少しで触れる、その瞬間、爆発が起き俺はあさ美をベンチの背もたれを盾にして上に被さり爆風から彼女を守った。
俺は一瞬何が起きたのか分からず、土煙がもうもうと舞う中で上体を起こしあさ美を見る、彼女はギュッと目を瞑り体を小さくしていたがどうやら無事のようだ。爆発が発生した林の奥を見ると円山の防御壁が結界石ごと破壊されていて無残な姿を晒している。
防御結界が破壊されたと言うのか? 結界内は完全な安全圏だったので武器を持つ者は出入口を守っている警備担当者だけだ、しかもここは入口から遠く離れていて直ぐにたどり着く者は居ないだろう。
俺はあさ美をベンチから引き起こし、手を引っ張って武器を取りに向かった。
「
あさ美が立ち止まり、辛そうな顔をしている。
「どうした、怪我してるのか?」
「いえ、足が痛くて…… 下駄が爆風で飛ばされたみたいです」
あさ美は裸足で地面に立っていた。地面には今の爆発で飛んできた瓦礫や木々が散乱し、さすがに裸足で歩くのはきつい。周りを見ても下駄は発見できず、暗がりの地面を良く見てゆっくり歩くしかない。
「浅波さん、魔物が侵入してしまいます! 早く行って下さい、私は大丈夫ですから」
あさ美は俺の手を放して言った。
「こんな所に置いていける訳無いだろ!」
俺はあさ美の膝の裏に手を回し彼女を持ち上げると胸の前で抱え、走り出した。
「やだ、浅波さん。私、重いのに」
あさ美は顔を赤らめ、足手まといになるから下ろして欲しいと頼んでいる。
あさ美を抱き抱え、瓦礫の無い参道の広場で彼女を地面に下ろすと、周りから悲鳴が沸き起こる。2人で声の方向に振り向くと写巫女が次々に侵入し丸腰の仲間を襲い始めた。
一体の写巫女がこちらに向きを変え、俺達に狙いを定めている。
迫る魔物に俺はあさ美の手を引き近くの大木を盾に回避しようとしたが、あさ美が転んで手が離れた。丸腰ではあさ美を守れない、周りを見渡すと祭壇にヒグマを倒した名刀が目に入り、俺は咄嗟にそれを手に取り、全力であさ美に迫る魔物に斬りかかった。
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