第3話
円山の元はテニスコートだった場所に設営された仮設の射撃場、多くの代行者が集まりペアの能力者に良い所を見せようと張り切る男達。
二人同時にエアガンを撃ち、相手よりも先に5枚の的に素早く当てる、的との距離は5メートル、最後に狙う的は中央だ。いたってシンプルなルール。
準決勝まで勝ち上がった俺は、同じ遊撃隊所属の綾乃の相棒である宇垣小次郎と対決していた。
大勢のギャラリーに囲まれた中でスタートの合図の電子音が鳴り、ホルスターからガスハンドガンを抜きセーフティーを外し的を狙う。スタンドに立てた円形の鉄板を5枚撃ち、5回BB弾が的に当たる甲高い金属音が響く。歓声が沸き、俺は宇垣よりも若干早く撃ち終わり勝負は決した。
後ろで見ていたあさ美が飛び跳ねて俺に抱き着いた。
宇垣は言った。
「浅波、遊撃隊の名にかけて優勝しろよ!」
決勝の相手はもちろん人気、実力とも一番の石動凪だった。2人は決勝戦の前に紹介され歓声が上がる。男は俺を、女は凪を応援してるようだ、男の中にはギラついた目をしている奴もいる、恐らくこの勝負が賭けの対象になっているのだろう。
的に向かい二人の男が立ち、両手を耳の傍に挙げて準備は整った。勝負は一瞬で終わる、射撃場は静まり返り、つばを飲む音さえ聞こえそうだ。
電子音が響き二人はホルスターに手を伸ばす、ほぼ同時に銃を抜きセーフティーを外しながら構え1つ目の的を狙いトリガーを引く、初弾、2発目と同時に的に当たる音がする、3発目、俺が一瞬速い、4発目も差は変わらない、最後に中央の的を狙い撃つ。
僅かに俺が先に的に当て、会場は女達の悲鳴と男たちの雄たけびが響き、俺の名前が勝者としてコールされた。遊撃隊の連中は大喜びし、要らない子部隊と影口をたたいていた奴らを見返した気分になり留飲を下げる。
凪は一瞬面白く無さそうな顔をしたが、直ぐにイケメン男子に戻り俺の勝利を称えた。
あさ美は俺に泣きながら抱き着いたので、俺は何も泣く事は無いだろうと彼女に笑いかけたが、あさ美は「だって、凄く嬉しいんだもん」と言って泣きながら微笑んだ。
羽衣は今の勝負を見ていたのか気になったが彼女の姿は見つけられなかった、もし見ていてくれたなら俺と凪、どちらを応援したのだろう。
遊撃隊の面々が駆け寄って来て俺をハイタッチで迎えると、いきなり皆に持ち上げられ胴上げを4回された。優勝者に送られる北海道の余市にある酒造会社の高級ウイスキー数本を全て皆に渡すと宴が始まり、俺は高級ウイスキーの味見だけして、あさ美と出店の方へ戻って終わりが近い祭りの雰囲気を楽しみ、射的ゲームで彼女が欲しがった熊の縫いぐるみを打ち落としプレゼントした。
あさ美は熊の縫いぐるみを浴衣と帯の間に挟み俺の手を引いてあそこの空いているベンチに腰掛けようと暗がりの方向を指さした。参道から少し外れたベンチに向かうと羽衣が突然目の前に現れ、目に涙を浮かべていた。
俺とあさ美は意味が分からず、繋いでいた手を放して羽衣を見つめると、羽衣は涙を手の甲で拭きその場を走り去ってしまった。
「岬先輩どうしたんだろう?」あさ美は少しドキドキしている様子で俺を見つめ「私のせいかな」と聞いてきた。
そんな事は無いだろうと俺は思い、あさ美に心配するなと伝えた。俺達を見て泣く? 羽衣が? いや、有り得ん。
暗がりのベンチに二人は座ると夜空に数発の花火が上がった、夏の風物詩の豊平川花火大会とは比べ物にならないほど小規模な花火を勿体ぶって時間を空けて打ち上げている、きっと手に入れるのも苦労したに違いないその花火は北国の短い夏の終わりを告げる儚さをそのまま打ち上げているようだった。
花火の明かりで一瞬暗がりのベンチの周辺が明るくなると周りには数組の恋人同士が愛を確かめ合っているのが見えた、凪と麗香もいてキスをして抱きしめ合っている。
これか、羽衣が泣いていた理由は…… 自分達が羽衣を泣かせた訳では無いと分かり安堵して、あさ美にその事を教えてやろうと彼女を見ると、あさ美は瞳を閉じて俺にキスを迫っていた。
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