夏祭り

第1話

 腕の包帯が外されて、傷口に貼られた大きめの絆創膏。


 野弧との戦闘から半月が経ち俺は復帰に向け射撃訓練を始めた。


 射撃場に出向き、ドイツ製のハンドガンP226を構え、的を撃つ。反動で傷が痛んだが腕は落ちてはいなかった。何度も的の中央を捉え、後ろで見ている栗林綾乃も満足げな表情を浮かべている。


「浅波の娘たちを呼んで撃ってみろ」

 

 栗林綾乃が言った。


「娘? あさ美と羽衣か?」


「他に誰が居る? お前がベッドで寝ている間にみっちりしごいてやったからな。二人とも素質はある、お前が伸ばしてやってくれ」


 円山の防御結界維持のため結界石に力を注入していた羽衣とあさ美は射撃場に呼び出され、それぞれ浅波と意識を重ねて弾丸の効き目を確認する事となった。


 まずは羽衣弾から試す、羽衣は俺の背中に抱き着かず、両手を背中に軽く当て静かに佇んでいる。


「浅波、いいよ」


 羽衣は振り返った俺を見つめ力を送る。


 白地に黒い人型の印刷された板のど真ん中を狙い、俺はトリガーを引いた。


 明らかにいつもより強い輝きを放つ赤い羽衣弾、的の中央に弾丸は当たり、人型の的は吹き飛んだ。


 繋がる意識の中で羽衣が訴えかける、もっと強力なのが撃てると。


 素直に感心した俺の感情が彼女に伝わり、羽衣の嬉しそうな感情が帰ってくる。隣の的を狙い再びトリガーを引き絞ると更に大きな羽衣弾が発射され、的が遥か遠くに吹き飛んだ。


 綾乃は背後の壁に寄りかかり、腕組みをして満足気にそれを見つめていた。


「次、曽根崎! やってみろ」


 綾乃は期待を込めてあさ美に言った。


 あさ美とはお見合い以外で射撃を試した事は無いが、彼女は俺に力を送りながらニンマリと自信ありげに微笑んでいる。


 羽衣はそれが面白く無かったのか、俺が撃つ瞬間にあさ美に囁いた。


「浅波透視!」


 あさ美の意識が乱れて、放たれたあさ美弾は風船が割れるように消し飛んだ。


「岬先輩!」


 あさ美は振り返ると、羽衣を睨んで眉間に皺を寄せた。


 羽衣は笑うのを堪えていたが、耐えきれず、プッと吹き出した。それを見て、綾乃が羽衣の首根っこを掴んで後ろに引きずると自分の隣に正座させた。


 気を取り直してあさ美弾を撃つ。紫の色を帯び、まるで花火のような幾つもの力が拡散し、正にショットガンのように広範囲を狙える弾丸が放たれた。これは使える、俺は振り向くとあさ美は可愛らしいドヤ顔をしていて心が和んだ。


「浅波さん! 私、今までで一番の弾丸作れました! ありがとうございます!」


 あさ美は俺の腕に抱きつき、怪我で感覚が鈍っていても分かるくらい、柔らかい体のふくらみの部分を押し当てて来た。


「ねえ、浅波さん! 今日、円山夏祭りだって知ってました?」


 あさ美は羽衣に聞こえないように小声で続けた。


「もし、良かったらなんですけど…… あたしと一緒に行きませんか?」


「えっ?」


 入院していて全く気が付かなかった、もうそんな時期だったとは……


「もしかして先約でも?」


 あさ美は不安気に俺を見つめる。


 羽衣は…… 俺と行きたがる訳無いか。


「ああ、いいよ。一緒に行こうか?」


 俺が答えると、あさ美はとても嬉しそうな顔をして微笑んだ。


「じゃあ、6時に浅波さんのバイクの前で待ってます」


 彼女はそう言うと、小走りで射撃場を後にした。


 羽衣は正座させられたまま綾乃にまだ説教をされていたので、俺も二人を刺激しないように射撃場を出た。病室暮らしから久々に宿舎に戻ると仲間たちに魔物との格闘戦について質問攻めにあった、最近は銃器での戦闘が主流になり、わざわざ危険な格闘戦などする者はいない。話は盛り上がり、多くの代行者が集まったので、その後話は脱線し、気が付けば時計は午後6時を少し回っていた。


 焦った俺は仲間との話を切り上げ、あさ美との待ち合わせ場所へと向かった。



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