第2話

 公園の枯れた噴水の前で能力者が男の形を模した魔物に捕まり、片腕で彼女の首を掴み持ち上げる。


 彼女のペアの代行者は石畳の地面に転がり既に息が絶えていた。


 もがき苦しむ彼女は苦し気に足をバタバタとさせていたが、奴に首をへし折られ体の力が抜けだらりと頭を下げた。


 奴は彼女の体内に残っている力を全て吸収し、地面にゴミのように放り投げた。


「足りない」


 魔物は呟いた。


 周りを包囲した討伐隊、使える人員をほぼ全て投入した決戦、戦闘が長引き太陽が沈む。


 その男の形を模した魔物がこちらに向けて手のひらをかざす。


 手のひらからグリーンに輝く光が現れる、先ほど殺された能力者の力だろう、彼女の力は綺麗なグリーン色をしていた、まるで花火のように。


 その輝きは彼女の自慢だった、その力をこちらに向け、攻撃しようとしている。


 包囲する討伐隊に向かってグリーンの光を連射しあちこちで爆発が起き、隊員が吹き飛んだ。


「結衣! 行くぞ、盾だ!」


 俺は結衣に指示し、奴に接近し攻撃を防ぎにかかる。


 青白い光の壁のような盾が体の前に現れ仲間から奪った力の攻撃を弾く。


「邪魔をするな」


 男は空気を動かし、俺と結衣を吹き飛ばした。


 地面を這いつくばっている俺達をよそに、空気の刃が仲間に向かい次々と討伐隊体のメンバーをを真っ二つにする。


「やらせねぇ!」


 俺と結衣は再び立ち上がり盾を作る。


 奴からの攻撃の圧で押し戻されそうになるなか、俺は叫んだ。


「皆、総攻撃だ!」


 盾がいつまでもつか分からない、早くなんとかしてくれ……




「浅波さん、浅波さん、大丈夫ですか?」


 えっ? あさ美が目の前に突然現れ意味が分からない。


「天井…… 夢か…………」


 病室の白い天井があさ美の後ろに見えて自分が寝ていた事を理解した。


「大丈夫ですか? 酷くうなされてましたけど」


 あさ美はベッド横の棚からタオルを取り出し、俺の額や首筋の汗を拭いてくれた。


「ひどい汗、浅波さんちょっと待ってて下さいね」


 部屋を飛び出した彼女は着替えを抱えて数分で戻って来た。


「浅波さん、起き上がれますか? 着替えさせてあげますから」


「えっ、いや、これぐらいの汗大丈夫だから」


「ダメです、べちゃべちゃじゃないですか」


 あさ美は俺の上着を脱がすとタオルを水につけて体を拭き始めた。


「浅波さんって、結構筋肉凄いんですね」


 タオルを手から離したあさ美は俺の腹部の筋肉を直接触り、俺の目を見つめた。彼女の瞳は潤んでいて、顔と顔の距離が段々近づいて来た。


「浅波さん…… 私……」あさ美はゆっくりと瞼を閉じる。


「覗きじゃ満足出来なくて、触りに来たか」


 羽衣が入口の扉に寄りかかり、腕組みをして見ている。


「ひーっ! ちっ、ちっ、違います! これは汗を拭いてあげてたんです!」


 顔を真っ赤にして飛び上がったあさ美は、羽衣に向かって両手をバタバタと振り物凄く焦っているようだ。


「ふーん、何か邪魔して悪かったわね、これから下も脱がすんでしょ?」


「そっ、そんな訳ないじゃないですか!」


 あさ美は両手を握りつま先立ちで反論する。


「浅波もデレデレしてたでしょ! せっかく購買で貴重なお餅入荷したから買って来てやったのに」


 餅の入ったビニール袋をベッドの端に放り投げると羽衣は「フンっ」と言って病室を出て行った。

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