第6話
一瞬でナイフが赤い眩い光を放ち野弧の頭が吹き飛んだ。
俺は仰向けに床に寝ころんで呆然と天井を見つめた。
「バカっ! 無茶しないで!」
羽衣は俺の胸に顔を埋めて号泣した。
バイクの無線からあさ美が呼びかける声が聞こえ、羽衣は顔を上げ涙を手で拭って2階に走り無線機を手に取った。
俺は意識が遠くなり、羽衣の無線応答が耳に入らない。
眠い、俺もここまでか…… 結衣…… もうすぐ………… 会え…………
暖かくて柔らかい感触、優しい香り、目を覚ますと羽衣は俺の額を撫でていた。
顔が近い、羽衣が優しい表情で俺を見つめている。こいつ、こんな可愛い表情出来るんだ…… 自分とは一回りも年齢が離れた少女に心を惑わされ、思わず目を逸らすと両腕には羽衣のタイツが巻かれ止血されていた。
素足の羽衣に膝枕をされている事に気づき、ドキッとして起き上がろうとすると、体に力が入らず、傷も痛んだ。羽衣は動こうとする俺の胸に手を当て、今まで聞いた事も無い優しい声で言った。
「じっとしてて、今あさ美が助けを呼んで迎えに来るから」
彼女の服や手には乾いた血が沢山付着していた。
「手当してくれたのか?」
「うん、講習を思い出してやってみた」
「すまない」
「ねえ、浅波、やっぱり結衣って子の事好きだったでしょ? さっきうなされて言ってたよ」
建物の外からエンジン音が複数聞こえ、入口の割れたガラスを踏みしめる足音が聞こえた。
「岬先輩! どこですか!」
上ずったあさ美の声が廃屋の店内に響きわたり、入口からの逆光で彼女の細いシルエットが見える。
「あさ美、ここだよ」
羽衣は俺の上着の肩のペンホルダーからLEDライトを抜き取りあさ美に向けてカチカチと点滅させて場所を知らせた。
岬に気が付いたあさ美が泣きそうな顔で駆け寄って来た。
「2人ともごめんなさい、私を助けてくれたばっかりにこんな事に」
羽衣はあさ美に言った。
「早く運ぼう」
「みんな! こっちに来て、早く!」
あさ美は助けに駆け付けた討伐隊のメンバーに叫んだ。
「浅波さん! ひどい傷…… もう大丈夫ですよ」
あさ美が俺の頬を触り、悲しそうな顔をして見つめていた。
円山に戻り、医務室に運ばれた俺は麻酔をかけられ、あっという間に眠りに就いた。そして目を覚ますと無機質な白い部屋のベッドの上に寝かされていた。周りには見知らぬ機械が幾つかあり、それが体に繋がっている。点滴袋も2つぶら下がり、落下する雫を訳もなく見つめ続けてこのまま永遠に点滴薬が減らない気がして憂鬱になる。
暫くすると看護師がやって来て意識を回復した俺に気づき医者を呼んだ。医者は怪我の症状と手術内容を説明し、回復には時間が掛かると告げて、帰り際に「彼女達を呼んであげなさい」と看護師に言い部屋を後にした。
窓の無い部屋には外の様子は伺えないが、部屋の時計は夜の9時を回った所だった。遠くで誰かが話す声がすると廊下に走る音が聞こえ、部屋の戸が開くと羽衣とあさ美がなだれ込んで来た。
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