第5話

 スーパーの自動ドアのガラスをハンドガンで打ち抜き、ヒビの入ったドアをバイクで破り、羽衣が最後のスタングレネードを背後に放り投げる。


 軽い破裂音と共に閃光が走り薄暗い店内が一瞬輝き、店の奥に2階に上がる止まったエスカレーターが見えたのでそこから一気にバイクで2階に上がり、後輪を滑らせバイクを転倒させて乗り捨てると、エスカレーターの上で下から昇ってくる野弧を迎え撃つ。


 手荒いバイクの乗り捨てに羽衣は床に転んでいたが、俺に意識を送るため間髪を入れずに立ち上がり、ハンドガンを構える俺の背中に飛びついて叫んだ。


あったまに来た! アンタなんて大っ嫌い!」


「羽衣、弾!」


 5、6匹か、素早く動く野弧に俺は羽衣弾を浴びせた。トリッキーな野弧の動きに無駄撃ちが続く。羽衣が時間を加速させ、的の動きをゆっくりにする。


「くっ、当たれ!」


 エスカレーターの中ほどで3体を倒し、その屍を乗り越えてもう2匹が接近する。


 ハンドガンを連射し、手が触れるほどの距離でその2匹を倒す。


 ホッとしたのも束の間、1匹の野弧が遅れて現れエスカレーターを駆け上がって来た。でかくて狙いやすい、恰好の的だと思い俺は狙いすましてトリガーを引くと弾が出ない、スライドがオープン状態、弾切れだ。


「羽衣! ナイフに力を送れ!」


 ハンドガンを捨て、すねの仕込みナイフを抜くと刃先が赤く輝いた。


 羽衣には近寄らせない、野弧の屍を飛び越えエスカレーターを駆け下りる。羽衣と離れ意識が剥がれたので、時間加速が弱まりナイフの赤く輝く光も若干鈍る。


俺はエスカレーターを上って来た狼のように大きな野弧にナイフを振り下ろす。


 速い! ナイフを振り下ろした右腕に野弧が噛みつき牙が腕を貫いた。


 痛みでナイフが1階の床に落下しカランと乾いた金属音が響き、血液があふれ出し腕を伝って手を赤く染める。


「浅波!」


 羽衣が絶叫する。


 俺は上から体重をかけて野弧もろともナイフの落ちた1階に飛び降りた。


 2メートルほどの高さからの落下で床に叩きつけられ、野弧の牙が腕から抜け、人と獣が床に転がる。


 朦朧とする意識の中で赤い刃が視界に入り、仰向けのまま無傷の左手を伸ばしナイフを掴む。


 先に起き上がった野弧が飛び掛かり、俺は足で蹴り返しその隙に素早く起き上がり、羽衣の力が抜け掛けた赤い光の消えそうなナイフを再び飛び掛かって来た野弧の顔めがけて突き立てる。


 野弧の素早い動きに反応できず、ナイフは首に刺さったが羽衣の力が足りず奴を倒せない。


 ナイフを突き立てた左腕に野弧が噛みつき激痛が走った。


 俺は片膝を付き、痛みに耐える。


 まだ死ねない、羽衣を守る!


 渾身の力を振り絞りナイフを握る手に力を込める。


「浅波! ナイフ放すな!」


 羽衣はそう叫ぶとエスカレーターを駆け降り、途中でジャンプすると俺の背中に飛びついた。

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