第3話
曽根崎あさ美は言った。
「えっ? あの建物壊しちゃいけないんですか? 既に少し朽ちかけてますけど」
木造板張り二階建てのその建物は4戸アパート程のこじんまりとした大きさで崩壊前は郷土資料館として使われていたらしい。
今は管理する者も無く、ガラスも割れ無残な姿を晒している。
「国宝や文化財での戦闘は避けろとの事だ」
俺達3人は午前中からその建物の道を挟んだ向かい100メートルと離れていない3階建ての小学校の屋上から双眼鏡で状況を確認していた。
「敵がいても攻撃出来ませんね」
あさ美は困惑している。
「あのボロ小屋に祭壇があんの?」
羽衣は興味なさそうに俺に聞いた。
「それを調べに来た」
「あさ美の得意なノゾキで確認したら?」
羽衣はあさ美に前かがみで向き直って、右目の前で両手を筒のように重ねて望遠鏡をのぞく仕草をしてからかった。
「岬先輩! 変な言い方辞めて下さい!」
「だって、あさ美、むかし寮で気になる男子の部屋透視してたじゃん。その
「うわーっ! 辞めて下さい、あれは誤解です誤解です誤解です!」
あさ美は焦って両手をバタバタさせ羽衣の口を塞ごうとしている。
「あさ美の透視って服の中も見れるんだっけ?」
「知りません! そんな事!」
「否定しないんだ? 浅波の裸はもう見たの?」
「えっ?」
驚いた俺は思わずあさ美の顔を直視してしまった、彼女の顔は見る見る赤くなり俯いたかと思うと急に叫んだ。
「服の中は透視出来ません‼」
「プッ! 何その全力否定! 逆に透視できるって言ってるも同然じゃん!」
羽衣は爆笑した、彼女の笑顔は可愛らしくここ最近俺には見せてくれていなかったので心が和んだ。
「二人とも、もう少し近くに移動するぞ」
2人の少女を引き連れて屯田兵中隊本部隣の幼稚園の庭に移動すると建物を監視するには絶好のポジションだったので、俺はあさ美に意識を送るように頼んだ。
あさ美はかがんでいる俺の背中に両手のひらを付け意識を重ねた。
彼女独特の感覚、波の無い穏やかな水中に潜っているようなフワッとしていて落ち着く感じ。
羽衣はフラッと熱っぽい感じ、性格そのままのような2人の感覚、こうも違うものか?
俺はあさ美に建物内部を透視して欲しいと脳内で語りかける。
すると自分の体がまるで空中を泳いで中隊本部内部に潜入しているかの様な不思議な光景が始まった。
眼球だけが建物内にあるような、まるでドローンを飛ばしているような世界。
1階には古い農具が沢山展示されていて、当時の開拓使の苦労が伺えたが今は展示品を見物している暇は無い、各部屋をくまなく見て回ったが何も問題は無いようだ。
1階は異常無しですね、あさ美の声が脳内で響き、2階を透視するよう頼むとまるで空を飛ぶように景色が上昇し天井を抜ける。
2階の床板を超えた瞬間、光が蠢く、写巫女の大群! 他にも何か居るのか?
いきなり目の前が暗くなり透視が終わった、あさ美が初めて見る光景に驚き意識が剥がれる。
「あっ! 浅波さんすみません、すぐやり直します」
あさ美は、より意識が繋がるように俺の背中に上半身を押し付けた。
羽衣とは違う背中に感じる柔らかい胸の感触に俺は一瞬ドキッとして、「うわっ」と声を上げてしまった。
「どうかしました、浅波さん?」
あさ美は不思議そうに俺の耳元で囁いた。
「いや、あさ美、透視はもういい、内部が厄介な事は分かったから戻って報告しよう」
若干自分の顔が熱くなるのを感じた、今の反応を羽衣に見られたかなと思い、羽衣に視線を向けると、彼女はしゃがみながら頬杖を付き、ジッと俺を眺めていた。
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