第2話
その後更にスケート場内部をドローンで偵察したらしいが、倉庫はおろか内部にも死体も奴もいなかったらしい。
ドローンがあるなら俺達が確認しに行った時にも貸して欲しかったものだが。
「ぬぬぬぬーっ!」
円山公園内に建設された屋外訓練施設に響く唸り声。
敷地内には障害物が立ち並び自分の体をいじめるにはもってこいの環境。
充分に休養を取った羽衣は今が最高レベルに能力が高まっていると言い出し、オフだと言うのに朝っぱらから彼女に叩き起こされて俺は此処に強引に連れて来られていたのだ。
羽衣は俺と手を繋ぎ、あの時の様に繋がらないか確かめていた。
「あれー? おかしいなぁ」
「力んでも意味無いだろ」
「
羽衣は意識が繋がらずイラつき始めた。
「もうアンタの背中にくっつきたくないし、だいたい機動力悪すぎでしょ」
「俺としては片手じゃライフルが撃ちづらいから背中で十分だが、遊撃隊なら後方で狙撃と言う訳にもいかないか」
「そうだよ! こないだみたいな無茶な任務させられたら命がいくつあっても足りないんだから、アンタも協力してよ!」
「協力って言ってもなぁ、何で背中じゃないと繋がらないんだ?」
「知らないわよ!」
「羽衣は何時からその能力使えるようになったんだ?」
「そんなの魔物に襲われてからに決まってるじゃない、アンタだってそうでしょ」
「まあ、そうだが…… 背中か、接触面積が多い方が繋がりやすいって事か?」
俺は正面から羽衣を抱きしめる。
「ちょ! なっ! 何やってんのよ!」
羽衣は体をビクッとさせて俺を見つめた。
「繋がるか?」
「繋がる訳無いでしょ! 離しなさいよ!」
俺の胸をドンドンと叩き、羽衣は落ち着きがないようだ。これでは繋がらない。
「脳どうしが近い方が良いとか?」
羽衣の前髪をかきあげて俺は子供の熱を確かめる親のように額と額をくっつける、彼女の顔が赤い。
ほんの少しだけ繋がる感覚、羽衣の感情が流れ込む。
何だか胸が苦しい、鼓動も速い。何か変な感じだ。
「珍しい、先客がいるみたいだな」
凪の声が聞こえ、羽衣の意識が剥がれる。
長月麗香も凪の後に続いてこちらに向かってきて言った。
「岬! 朝っぱらからお熱い事だな、何の訓練だ?」
「麗香! 凪君?!」
羽衣は抱き着かれたまま驚いて2人を見た。
「邪魔して悪かったな、続けてていいぞ」
麗香は唇を突き出してキスをせがむ仕草をして羽衣をからかった。
「違うんだって! どんな体勢が繋がりやすいか試してたんだって!」
「はいはい」
ニヤニヤが止まらない麗香は信じていないようだ。
「
羽衣は顔を更に真っ赤にして俺を突き放すと訓練施設から1人で出て行った。
俺は急いで羽衣の後を追って施設を出ると、彼女はブツブツ独り言を言いながら木漏れ日の中を歩いている。
「凪君に見られた凪君に見られた凪君に見られた」
俺は羽衣に追い着くと言った。
「羽衣! 別に見られたって良いじゃねえか、どうせ脈無いんだろ?」
「はぁ? 何ですか? ヘンタイ中年オヤジ」
羽衣は速足で立ち止まらずに、物凄いジト目で俺を睨む。
彼女は続けて言った。
「ヘンタイ中年オヤジが美少女に抱き着くのは犯罪です、近づかないで下さい。また球場内30周走りたいんですか?」
「あのな、もとはと言えばお前が試したいって無理やり俺を此処に連れて来たんじゃねぇかよ」
「抱き着けとは言ってません、それじゃ」
羽衣は話は終わったと言わんばかりに俺を視界に入れず、完全無視で宿舎に戻って行った。
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