覚醒?

第1話

「2人とも良くやってくれた、これは貴重な映像資料だ、早速分析に回す」


 帰還した俺と羽衣は円山球場内の遊撃隊の詰めているプレハブ小屋に駆け込み、ガンカメラのメモリーカードを隊長の栗林綾乃に手渡していた。


 綾乃は食い入るようにスケート場を撮影した動画を、椅子に座りノートパソコンで確認して言った。


「それにしても、岬羽衣の能力が凄まじい、これほどの物とは思わなかったよ」


 綾乃の知る限り今回の羽衣弾の力は、過去に遡っても匹敵する事例は見た事が無いらしい。


「隊長、それがその…… どうして出来たのか分かんないんです」


 俺と羽衣は綾乃の後ろに立ち、パソコンの画面を一緒に確認していた。


 羽衣は戸惑いを隠せない、雑魚狩りしか出来ない自分に秘められた能力に。


「なるほど、この時の事を覚えているか?」


 綾乃は椅子に座ったまま振り返り、羽衣に聞いた。


「はい、敵に襲われて生きた心地がしなかったと言うか、敵は見えなかったんですが凄まじい殺気に死を覚悟しました。でも浅波さんが何度も私を助けてくれて、勇気が湧いてきたんです」


「浅波との意識の繋がりが深まったのか、愛に似た感情が能力を最大限引き出すと言われているが、能力覚醒の謎は深い」


「愛?! 絶対にあり得ません! むしろ嫌いなくらいです」


 顔を赤らめた羽衣は全力で否定した。


「だそうだ、残念だったな、浅波」

 

 綾乃は俺に微笑んだ。


「逆に浅波が岬羽衣に特別な感情を抱いたのかも」

 

 今度は羽衣に向かって綾乃は微笑む。


「やだ、隊長! キモイこと言わないで下さい」


「そうじゃ無いのか?」


 綾乃は本心を探るように俺に聞いた。


「ありえん!」


 羽衣との関係は第一印象から悪かった、初対面であからさまにやな顔をされ、事あるごとに罵倒してきた彼女に恋愛感情が芽生えるはずも無い、顔は円山随一と言うのは認めるが、子供過ぎる態度は正直疲れる。


「まあいい、岬は能力回復の為に休暇を与える、戻って休め」


「はっ! 失礼します」


 羽衣は一礼してプレハブ小屋から出て行った。


「あの敵、撤退戦で遭遇した男の形を模した魔物だろ?」


 綾乃は一転して真剣な表情で言った。


「姿は確認出来なかったが、あの攻撃は奴の可能性が高い」


「なあ浅波、ホントに2人の間に恋愛感情は無いのか?」


「無いね、ただ……」


「ただ、何だ?」


「あの攻撃を受けた時、絶対に結衣のように彼女を死なせはしないと思っただけだ」


「結衣への思いが岬羽衣に伝播した?」


 綾乃は顎に手を当て、考え込んでいるようだ。


「分からない」


 そう、俺も必死だった。


「結衣との関係は?」


「お互い意識はしていたが、言葉にすることは無かった」


「意識を重ねれば言わずとも思いは伝わるか……」


 覚醒の謎は解明されていない、ただあの時、心が一つになった気がした。そんな事を言ったら羽衣は怒るだろうが……

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