第5話

 氷の張っていないスケートリンクを歩き奥の鉄扉の前まで来ると、扉には倉庫1と書かれていた。かなり大きな扉、内部は広そうだ。


 俺はハンドガンのライトを点けて羽衣に意識を送るように指示する。


 羽衣の時間加速は、弾丸を作らなければ長時間持つ、内部で敵に遭遇しても逃げ切れるはずだ。この能力は今のところ羽衣にしか出来ない、能力が不安定な彼女が訓練生から昇格したのもこの能力の将来性を見込まれての事だった。


 羽衣が背中に体を重ねて来て、彼女の心臓の鼓動が速いのが小さい胸を介して伝わる。


 金属の重い扉をそっと押すと、この目を疑う光景が目の前に広がる。


 内部には第一討伐隊と写巫女の死体が交互に綺麗に積み重ねられていて、四方を取り囲んで青い謎の光の柱が床から天井まで伸びていた。よく見るとそれは少しだけ宙に浮いている、俺は羽衣の剥がれを心配したが彼女は何とか耐えているようだ。


 死体の山が浮かび、床との隙間の向こう側に何かが動く。


 足? 誰か居るのか? 羽衣の意識が早く逃げろと言っている。


 一瞬、空気が裂けるような気配、歪みを感じる。


 羽衣が時間を加速させスローモーションが始まり、弧を描く透明な空気の歪みが近づく。スローモーションなのに速い! 俺は後ろにいる羽衣を押し倒しそれを間一髪で避けた。


 金属の扉が真っ二つに切れ、床に大きな音を立て崩れ落ちる。


 結衣を殺した攻撃、まさか!


「走れ! 羽衣!」


 羽衣の腕を引っ張り強引に立ち上がらせると、俺はスタングレネードのピンを抜き背後に放り投げた。


 小さな爆発音と共に背後の倉庫内で輝く眩い光。羽衣との意識は剥がれ、意識の残像が残る。スローモーションは持って数秒か…… また背後に空気の歪み。


 来る!


 俺は走っている羽衣の背後に飛びつき、伏せる。


 頭をかすめる空気の刃。


 スケートリンクの壁が綺麗な直線で切り取られる。


 羽衣の手を取り再び走り出す。


 再び繋がる意識、手を繋いでいるだけなのに。時間がいつもより更に加速している、羽衣の生存本能が能力を極限まで引き出しているのか?


 2人は全力で走り、出口を目指す。


 俺はスタングレネードを取り出し、手を繋いでいるので羽衣にピンを抜いてもらう。


 甲高いピンを抜く音と共に後ろにグレネードを捨てる。


 再び激しい閃光が広がる。


 背後から次々と襲い掛かる空気の刃も、俺達の時間加速には敵わない。


 羽衣、弾丸いけるか? 限界レベルのパワーで! 脳内で彼女に問いかけると、ハンドガン自体が赤く輝き出した。


 光指す正面玄関を出た瞬間に俺は振り返り羽衣弾を建物内部に撃ち込む。


 今まで見たことも無い赤くまばゆい光を放つ羽衣弾。


 建物内部で赤い光が炸裂し、玄関に爆風が噴き出し、2人は地面に吹っ飛ばされた。

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