第3話

「遊撃隊?」


 羽衣は食堂で朝食の納豆をこねくり回して、正面で食事している俺に向かってキョトンとして聞いてきた。


「臨機応変に戦える、俺達向きだろ?」


 新しい所属先が決まり、俺達は遊撃隊に編成された。問題児の巣窟、少人数での任務で高い損耗率、長生きは期待出来ない。


「うへー、そこってヤバいとこだよね?」


「そんな事ないだろ」


「嘘ばっかし! いらない子部隊だって聞いたことあるもん」


 羽衣は大きなため息をつくと、だらしなく椅子にもたれて、ぼんやりと天井を眺めた。


「岬先輩!」


 いきなり元気な声で呼ばれた羽衣は、ビクッとして座ったまま振り返った。


 そこには羽衣と同い年くらいの戦闘服を着てメガネを掛けた、青色の長い髪が美しい少女が立っていた。


「あさ美?」


「やっぱり岬先輩だ! 私、訓練生から本日付で第一討伐隊に配属されました、やっと先輩と一緒に戦えますのでご指導よろしくお願いします」


 羽衣はバツが悪そうに言った。


「いやぁ、私さ、こないだの作戦でミスって遊撃隊に転属されちゃったんだ。ゴメン、だから一緒には戦えないけど、あさ美には力があるからきっと上手くいくよ」


「そうだったんですか、残念です。私、岬先輩のご活躍願っています。それでは失礼します」


 踵を返し少女が帰って行くと羽衣は朝食を採る俺に向き直り、じっと眺める。


「何だよ」

 

 俺は眉間に皺を寄せ警戒する。


「なぐさめてくれないの?」


「は?」


「だって、カッコ悪いし」


 羽衣はテーブルの下で俺のすねを蹴った。


いってえ!」


「わかれ! 女心!」


 そう言うと羽衣は納豆をご飯にかけ一気に口にかっ込んだ。


「知るかよ!」


 


 転属先である遊撃隊のブリーフィングルームに入ると懐かしい顔の30代くらいの女性に声を掛けられた。当時と同じ少年のような赤毛の短髪、戦闘と割り切っての髪型だろう。


「あら珍しい、撤退戦の英雄がこんな所に配属だなんて」


「負け戦に英雄はいないだろ」

 

 俺はその呼ばれ方が嫌いだった。


「でもあの時、浅波と結衣が殿しんがりを努めて討伐隊の本隊を逃がした。今アタシが生きているのも2人のお陰だよ」


「いや、結衣の最後の弾丸が俺を助けてくれた…… 英雄がいるとすれば結衣だよ」


「で? その可愛らしい子が新しい相棒かい?」

 

 彼女が俺の後ろに立っている羽衣を覗き込み言った。


「岬羽衣です、よろしくお願いします」


 羽衣は後ろから一歩前に出て、緊張気味に元気よく挨拶した。


「羽衣? 何とも意味深な…… 私は栗林綾乃、ここの隊長をやっている。よろしくな!」


「うわー! すっげえ美少女、もうウチのアイドル決定だな、羽衣ちゃんは俺が守るぜ!」


 綾乃の横にいた若い男が、羽衣の見た目だけは可憐な姿に興奮して言った。


「こっちは私のパートナーの代行者、宇垣小次郎だスケベだから気を付けなさい」


 羽衣が俺に小声で言った。


「あの人に守られちゃうかな? アンタが守るって言わないから」


「なんならあいつとペア組んでも良いんだぜ、相性が良けりゃあ」


「あっそ、じゃあ試してみるかな」


 羽衣は俺の足を誰にも気づかれないように踏んで来た、しかも全体重をかけて。


 何で怒る? もしかしてヤキモチ妬いて欲しいとか? いつもキモイとか死ねとか罵倒するくせに…… 


 女心は分からない。

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