出撃

第1話

 羽衣はミニスカートの下に黒タイツを履いていた、俺の言うことを聞いた訳ではなく2度と俺にパンツを見せない為らしい。彼女が言うにはオッサンが美少女のパンツを見た罪は万死に値するとの事だ。


 羽衣は指揮官に俺がスカートをめくったセクハラ男だと言いつけたが、指揮官も羽衣の姿を問題視していて喧嘩両成敗となり、後日円山球場内を羽衣は15周、俺は30周走る懲罰となった。


 


 手稲星置に移動した第一討伐隊は各自持ち場に着き、俺と羽衣はスケート場を正面から見渡せるマンションの駐車場から現場周辺の監視を続けていた。


 距離は100メートル、見通しのいい高台、天候も良く援護には申し分ない。


『正門外周異常なし』


 双眼鏡で周辺を確認し、羽衣は無線で報告する。


 電気の点かない箱もの施設の内部は結構暗い、13:00時に決行するのもそれを考慮しての事だろう。


「凪君、大丈夫かな」


「岬! 任務に集中しろ、突入1分前だぞ。準備しろ!」


「分かってる!」


 羽衣はライフルを構える俺の背中に体を乗せ意識を重ねて来た。繋がった意識から彼女の緊張がいつもより強いのが自分の体に伝わる。


 俺は羽衣が凪の事を気にしているのかと考えてしまい、その意識が彼女に伝わり羽衣が、彼の無事を願っている、そんな感情が帰って来た。


 ねえ、結衣って誰…… 思いもしない羽衣の問いかけが脳内で響き俺は激しく動揺し、昨日見た悪夢を思い出してしまい、それを羽衣に意図せず見せてしまった。


 羽衣が凄惨な現場を疑似体験して激しく動揺している、息苦しい感情が自分に伝播し体が激しく強張り現実に戻れない。


 スケート場の扉が爆発音と共に吹っ飛び突入が開始された。


「足が無い! 助けて!」


 羽衣が絶叫する。


 羽衣! これは俺の記憶だ! 現実じゃない、目を覚ませ!


 意識を通して羽衣に呼びかけるが反応がない、彼女を振りほどいて意識を剥がそうとするが体が硬直してまともに動く事も出来ない。


 背中が濡れる感覚、羽衣が俺の記憶の中で結衣の感情に支配され涙をこぼしている。


 スケート場の天井付近のガラスが吹き飛び中に光がうごめく、凄い数だ。初めて見る大群、ただならぬ雰囲気、一刻の猶予も無い。


 俺は精神を集中して叫んだ。


「羽衣! 援護するぞ!」


 羽衣は意識を取り戻したが、感情が乱れて意識が剥がれた。


 スケート場の入口や窓から写巫女があふれ出しあちこちに逃げだしたので俺はライフルのトリガーを引いたが、赤い閃光を放つ羽衣弾では無くただの物理弾だったので奴らに当たった所で効き目は殆んど無い。


「羽衣! 早く送れ!」


「なんで? やってるのに、ダメ! 繋がらない!」

 

 羽衣は焦って両手が震えている。


「落ち着け! いつも通り最初からゆっくりやってみろ」


 羽衣が背中にゆっくり被さり深呼吸する。


 スケート場から出て来た写巫女が小隊の仲間を捕まえ体を半分に引きちぎり、体液が辺りに飛び散った。


 それを見た羽衣が絶叫して意識が繋がらない。


『脱出する、正門から援護頼む』


 凪が無線で要請して来た。


 建物の中で戦っていたチームが正門から逃げ出す。


 俺と羽衣は援護出来ずに総崩れする仲間が殺されるのを茫然と眺めるしか無かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る