第5話

 夜の公園、石畳の上で横たわり、声にならない声で涙を浮かべる少女。


 涙は雨とまじり、どれほどの涙を流しているのかは分からない。


 彼女の胴体は千切れ、内臓が散らかっている。


 最後の力を振り絞り、彼女を抱きかかえた俺の頬を触る震えた手の感触。


 一瞬彼女との意識が重なり、ありがとうと脳内に響く声。


 強敵を前に、彼女が作った最後の弾丸。


 勝ち誇った人の形を模した敵がゆっくりと近づき、銃口を向けた俺に奴が呟く。


 倒すのは無理だと。


 ハンドガンのトリガーを引き、乾いた破裂音と共にスライドが勢いよく後退し、空薬莢が石畳の地面に転がる。


 奴へ向かう弾丸、彼女の能力を纏った蒼白い閃光。




 ハッとしてベッドの上で目を覚ますと自分の鼓動が速くなっていた、ひどい寝汗だ。またこれか、この夢は俺が死ぬまで見続けるのだろうか。


 結衣ゆい、助けられ無くてすまない、お前の無念は俺が必ず晴らして見せる。


 新しい相棒の名が羽衣だと知って、怖くなった。結衣のように守ってやれないのでは無いかと。


 結衣と羽衣は見た目はまるで似ていないが、性格が少し似ていて危なっかしい所がある。羽衣は能力にムラがあり、安心して戦闘は出来ない。ただ、たまに途轍もない能力を発揮した。そんな所も結衣に似ていた。


 俺の願いが叶うならもう一度あの地に赴き、結衣を埋葬してやりたい。


 石畳の上では土に還る事も出来ないのだから。




「いつまで寝てんのよ、ブリーフィングが始まるわよ!」


 羽衣は俺の枕を抜き取り顔にぶつけた。手荒い起こし方、彼女らしい。


 あの夢から覚めた後、眠れなくなり再び眠りに就いたのは外が明るくなって来た頃だったので、羽衣が来なければ起きられなかっただろう。


「珍しいわね、オッサンだからいつも早起きなのに」


「調子はどうだ?」


「アンタこそ大丈夫? こんな美少女に起こされたのに、そんなむっさい顔して」


 ここは一応男性専用の宿舎なのだが、もう殆んどの人間は出払っていて羽衣がこの二段ベッドが立ち並ぶ部屋に居ても誰も驚かない。俺はゆっくりと起き上がりベッドに腰掛けて羽衣に言った。


「自分で美少女って言うな」


「だって可愛くない? 私」


 羽衣はクルッと回転しミニスカートが広がる。


「思わないね、まったく」


「まったーっ 昨日エロい目で見てたくせに」


 そう言われるとまたミニスカートから出る羽衣の細い足を見てしまった。ただ細長いだけの色気のない青い血管の透けた白い足、体重は40キロあるのだろうか?


「お前、そんな恰好で戦闘するな、怪我するぞ」


「戦うのは代行者のアンタだし、私は能力を貸すだけ。俺がお前を守るって約束してよ」


「そんな約束は出来ない」


 出来る事ならそう言ってやりたい、だがこの戦いはそんな生易しい物ではない。あの夢のような結果が再び訪れる可能性だってある。


「せめてタイツぐらい履け、じゃないともうバイクには乗せられない」


「えーっ、可愛くない」


「お前、魔物にアピールしてどうすんだよ! まさか俺に見せたかったのか?」


「マジで死ね! てか、いいから早くしてよ!」


 羽衣は俺の腕を引っ張った。



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