第3話
羽衣の絶叫とともに綺麗な角度で空に舞うオフロードバイク、時間にして3秒。
異形の魔物に追われるよりも怖い着地……
運よく下り坂でのソフトランディング。
あまりの美しい着地に俺は思わず雄たけびを上げる。
そのままバイクのスロットルを戻し速度を徐々に落とし惰性で北海道神宮の鳥居を
この円山公園一帯が円山防衛陣と言われる結界に守られている、結界は能力者が高さが10メートルはあるであろう防壁に5メートル幅で公園を取り囲むように設置された
球場の前でバイクを停め振り返ると、羽衣はぐったりしてジト目で俺を睨んだ、相当俺に文句がありそうだ。
「何怒ってんだよ? 上手く撒けただろ」
「上手く? どこがっ! 死ぬかと思ったし!」
2人は戦果報告の為、バイクを降り球場内のグラウンドに設営された作戦指揮所に向かった。狭い球場内には無機質な灰色のプレハブ小屋がびっしりと立ち並び見ているだけで息苦しくなる。
「羽衣ちゃんがもうちょっとだけ剥がれないで耐えてくれてたなら、あんな事にはならなかったんだけどね」
「岬って言えよ! キモい」
羽衣は怒って俺の背中に結構強めにストレートパンチを入れて来た。
2人は作戦指揮所の高さの低い入口を
小屋に入ると俺達は部屋の奥に座っている担当指揮官に近づいた、プレハブ小屋の床は簡素で板が薄いのか歩く度にゴトゴトと靴音が響き何とも心許ない。指揮官と目が合い俺は立ったまま戦果報告をする。
「浅波、岬、両名戻りました」
「ご苦労、無事で何よりだ。で、どうだった?」
この指揮官は自衛隊から派遣されていた、円山防衛陣は軍の規模で言えば中隊、約200人が此処で働いている。俺達が配属されている第一討伐隊と同規模の第二討伐隊はここの主力部隊で重要なため円山に数名しかいない自衛隊幹部が指揮をしている。それ以外の我々隊員は民間人の集まりだが、国の管理のもと、みなし公務員として戦闘に参加し、給料を貰っていた。と言っても給料を貰ったところで店は北海道内一店舗しか無い、この円山防衛陣内の購買だけであり品ぞろえは非常に悪い。世界最大のネット通販を利用する事は出来るのだが、如何せん有事の北海道では注文した品が何時届くかは誰にも分からなかった。
「手稲本町にて
「祭壇は確認出来たか?」
「確認出来ませんでした」
祭壇とは写巫女の巣のような物で、実際に祭壇があるわけではない。ただ、何者かが設置していて、それも人間ではないと来た。
俺は人の形を真似たそいつに1回だけ会った事がある。
「岬じゃ無理だって!」
俺が指揮官に報告していると、背後から靴音と共に若い女の声がした。
「祭壇も確認出来ないなら行った意味無いじゃない」
羽衣よりも生意気なこの女はいつも言動が鼻につくが、実力が有りぐうの音も出ない。
「
小ばかにされた羽衣が振り返り、口を尖らせて何時もからかってくる麗香を睨む。
「浅波さんも岬なんかじゃ役に立たないでしょ、私が変わってあげよっか? もう1回くらいなら付き合えるから、そこに案内してよ」
是非ともお願いしたい。羽衣より3つ年上の長月麗香の能力値は羽衣の比較にならない、まさにけた違いだ。そしてなによりモデル体型の黒髪美女だった。
「よさないか、麗香!」
麗香の後ろから指揮所に入って来た凪が彼女をたしなめる。
「凪君……」
羽衣は呟くと急にしおらしくなり、上目遣いであざと可愛く一方的に好意を寄せている凪を見つめた。
凪は羽衣の必死のアピールを気にもせず言った。
「岬クン、僕たちも報告したいんだけど、もういいかな?」
凪は誰もが認める長身のイケメンで年齢は21歳、能力者なら一度はペアを組みたいと思わせる人気があった。ただ顔立ちは整っているが、穏やかな見た目で男らしいと言う感じでは無い。
「岬! 邪魔だから! 雑魚狩りに報告なんていらないでしょ」
麗香が羽衣を雑魚呼ばわりしているかのように嘲笑った。
「くっ!」
手のひらを強く握って俯き、羽衣は無言で部屋を出て行くので俺も後に続く。
指揮所を出た途端に羽衣が空に向かって叫んだ。
「
羽衣は振り向くと俺に食って掛かる。
「彼女の言う通りだろ」
「麗香もムカつくけど、アンタも相当ムカつくんだから! もう、ペア解消だからね!」
「どうぞご自由に」
羽衣は金髪を振り乱し、ドスドスと地面を蹴って球場を出て行こうとする。
「岬! 食堂行かねえのか?」
振り向いた彼女は眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。もし羽衣に隠れファンが居たとしたらその姿に幻滅するだろう。
彼女は叫んだ。
「誰がアンタとなんか一緒に食べるか! 死ね!」
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