第四話 拷問処刑
「……あのー、『ユニークスキル』って、何ですか?」
みんなが驚いているところ申し訳ないが、この場で一人だけ何が何だかよくわかってない俺は、おずおずと手を上げ質問する。
「『ユニークスキル』とは、二つとして同じものが存在しない特別なスキルの事ですぞ。基本的には刻印は白色で、『レベル』の概念は存在しないのですが……」
そういってリガレットさんは、俺の胸にしっかりと刻まれている黒色の刻印を見つめる。『ユニークスキル』の刻印は通常は白色、だけど俺の刻印は黒色。どうしてかはわからないが、これも俺が『スキルの発現』中に気絶したことと関係あるのか……?
「ユヅキ殿、その刻印について、何か感じるものはありますかな?」
「感じるもの……ですか?」
「はい。その刻印に意識を集中した時に、感じるものです」
「ちょっと待ってください……今確かめます」
「お待ちを。その刻印からは、何やら嫌な気を感じます。くれぐれもお気をつけて」
「わかりました。では……」
俺は早速、幾何学的に広がる刻印に意識を集中させた。
深く、深く、潜っていく。
――なんだろう、何かが渦巻いている。黒い、靄……? あれはなんだ? 刻印の本体か……?
俺は、その靄に意識を傾ける。直感で、それが刻印の本体であることが分かった。その本体に、意識の手を伸ばす。
瞬間、脳神経を直接掴み、引き千切ったような、激しい頭痛に襲われた。
「ッガァア!」
たまらず絶叫し、頭を抱えてその場にうずくまってしまった。周りがどよめく。
「ユヅキ! 大丈夫!? ユヅキ!」
イーネスが駆け寄り俺を支えてくれるが、「ありがとう」と言う余裕すらない。今まで経験したことのない激しい痛みだ。思考もままならなくなってきた。
しばらく歯を食いしばって耐えていると、だんだんと頭痛が弱まってきた。
荒い息を吐きながら、先程言えなかったお礼を何とか口にする。
「……ありがとうイーネス、もう大丈夫」
「よ、よかったぁ……」
ホッとした面持ちでため息をこぼすイーネス。
ようやく思考が回復してきた俺は、今感じたことを伝えるべく、顔を上げた。
リガレットさんも王様も、侍女のみんなまで心配そうな表情を浮かべているのが目に映る。しかし、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
「今から、この刻印が教えてくれたことを話します。まず一つ、このスキルの名前です」
先程、黒い靄に意識を向けたとき、いくつかの情報が直接頭に流れ込んできたのだ。頭痛の原因だと断定はできないが、おそらく原因の一つではあるだろう。
「この刻印のスキル名は、『
「……
リガレットさんが険しい表情になる。同時に手元では、紙に羽ペンでサラサラと刻印の形と名称を書き取っていた。
「それは、本当ですかな?」
「はい、おそらく本当だと思います。刻印から直接流れ込んできた情報なので」
「なるほど……『
「はい。そのスキルの持つ能力は、『様々な拷問器具を意のままに操り、立ちふさがる虫けら共を根絶やしにする。完璧に使いこなすには……』づぁっ!」
「! どうされましたか、ユヅキ殿」
「……ここから先を話そうとすると、ッグ! 頭痛、が……」
「なるほど……ふぅむ、困ったものですな」
ここから先のことを話そうとすると、先程の鋭い頭痛が瞬間的に襲い掛かってきた。そのショックで。話そうとしていた内容も掻き消えてしまった。
しかも、その話そうとしていた内容を思い出そうとしても痛みに苛まれるため、実質、分かっていることは今話したことすべてと、
「他に伝えられることは、今使える『スキル』の能力、つまり、今俺が使うことができる拷問器具だけです」
「ほう……では、お願いできますかな?」
リガレットさんに続きを促され、痛みの余韻を引くこめかみを押さえながら、俺はそれに従って話を続けた。
「今俺が使える拷問器具は、『
『哭鎖』は汎用性に富んだ鎖で、『さらし台』は文字通りの拘束用の器具だと加えて説明した。
「なるほど、なるほどなるほど分かりました。そうですね、ではユヅキ殿、私と一つ、約束をしてはいただけませぬかな?」
メモをし終えたであろう紙を、くるくると丸めて懐にしまいながら、リガレットさんは俺に迫る。
「約束……ですか? なんでしょう」
コホンッと、リガレットさんは咳ばらいを一つ。
「はい。ユヅキ殿が発現された『ユニークスキル』には、何やら嫌な感を抱いてしまいます。『能力鑑定』の流れの間に起った異常事態、前代未聞の黒い刻印、それにその刻印が発する、禍々しい気……。原因不明の不可解な点ばかりですので、今後はその『ユニークスキル』を極力使わない、ということを約束していただきたいのです。どんな危険があるか、分かったものではない」
「『ユニークスキル』を使わない……ですか」
「はい。しかし、私の方でこの『ユニークスキル』に関して調査、研究をしようと思うので、その調査でユヅキ殿の『ユニークスキル』のことが解明するまでの間だけで結構です。持てる限りを尽くして全力で研究し、早急に調べ上げますゆえ」
「分かりました。できるだけ使用を控えます」
「ええ、お願いします。では、これにて『能力鑑定』のすべてを終了します」
ペコリと一礼したリガレットさんは、『箱』とその周りにある装置を担いでスタスタと歩いて行ってしまった。
その間にも行われていた、侍女さんとリガレットさんの「お手伝いします」「結構ですぞ、たまには運動もしないとですからな! ほほほ」というやり取りを聞いて苦笑いを浮かべていると、王様がコホンッと咳払いをした。
「では、一通り『能力鑑定』も終わったことであるし、ユヅキよ。これから先、そなたには戦うための力と『英雄の器』の大成に努めてもらう。住居はこの城とは別に、イーネスをはじめとする余の子らが住んでいる屋敷がある故、そこに住むがよい」
「え! お屋敷ですか!? いいんですかそんな良いところに住ませてもらっても」
「何を言うか。こちらの都合に巻き込んでいるのだから、この位は当然であろう」
巻き込んだ、と言われればその通りなのかもしれないけど、最終的に行くという判断を下したのは俺自身だから、そこのところは微妙な心境である。でも、せっかく住まわせてくれると言ってくれてるわけだし、ここはお言葉に甘えよう。
「ありがとうございます! お言葉に甘えさせていただきます」
「うむ、素直でよろしい。して、ユヅキの鍛錬のために、明日にでも学院へ編入してもらう予定だが……先程から気になっていたのだがイーネス、ユヅキとは仲が良いのか?」
「ひゃい! お父様! そ、その、ユヅキとは、仲がいいというかなんというか、その、ええと……」
「なんだ、どうした、はっきりしないではないか。そなたらは下の名で呼び合っていたではないか。仲が良くなければ、そんなことはしないであろう?」
いや、初対面の王様はたいして仲良くないのに俺の事下の名前で呼んでますよね……?
それともあれか、余は王だからいいのだ的なノリか。
ともかく、王様にいきなり話の矛先を向けられたせいか、しどろもどろになるイーネス。それに対して王様は、上品に巻かれた口髭を撫でながら何やら不審な表情を浮かべていたので、すかさず俺がフォローに入った。
「イーネスとは友達になりました!」
「な、なに!? イーネスと、友達……?」
王様が、信じられないといった様子で玉座から立ち上がる。そんなに驚くことかなぁ。
「はい。イーネスは、むっすりしたかと思えばコロコロ笑ったり、泣きそうな顔をしたかと思えば照れたり、表情がいっぱい変わるので一緒にいて楽しいですよ。まだ友達になってそんなに日は経ってないですけど、これからもずっと仲良くしていけそうです!」
俺的には一生懸命フォローしたつもりだけど、うーん、これってフォローになってるのか?
「ちょ、ゆ、ユジュキ! しょんなこといわないでぇ! うぅぅう!」
俺の目の前でブンブンと腕を振ると、顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込むイーネス。イーネスさん、ユジュキって誰ですか。
「ほら、あたふたしてたかと思えばすぐ照れる。イーネスってホント面白いよね」
「照れてないもんっ!」
つい指摘してしまう俺。そして、俺に指摘されるとガバッと勢いよく立ち上がるイーネス。その顔は、若干怒っているように見えた。
「ほらまた、照れたかと思えば怒ってる」
「ち、ちがっ、これは……」
どうやら図星だったようだ。やっぱり、表情がコロコロと変わるイーネスは面白い。いろんな意味で。
「もうっ! ユヅキのバカ!」
顔を赤くし、頬を膨らませたイーネスのその言葉を切っ掛けに、王様が噴き出した。見ると、腹を抱えて大笑いしている。
そこで、イーネスがハッとなった。
「し、失礼しましたお父様! 『玉座の間』だというのに無礼な態度を……」
「いや、よいよい。クハハッ、こんなに元気なイーネスを見るのは、フハッ、余とて久しぶりでな、ブフッ、ついつい失笑してしまった」
「そ、そんなぁ……」
イーネスがしょんぼりとする。
王様はひとしきり笑い終えると、玉座に腰を掛けた。そして、くしゃくしゃの笑顔を俺に向け、
「……ユヅキよ、どうやらイーネスは余と同様、そなたのことを大層気に入っているようだ。そなたには頼み事ばかりで申し訳ないが、これからもどうか、娘と仲良くしてやってくれないか? これは、王としてではなく、一人の父親としての頼みだ」
言葉の後半になるにつれて、王様の表情は笑顔からだんだんと真剣そのものに変わっていった。最後あたりは若干悲しそうな表情になっていた気がするが、俺の見間違いだろうか。
「もちろん、そのつもりですよ。というか、こちらこそ仲良くしてもらいたいです。この世界には、今のところイーネスしか友達いませんし、もし他にできたとしても、イーネスとはずっと仲良くありたいと思ってます」
「ユヅキ……えへへ」
イーネスが嬉しそうな、屈託のない笑顔をこちらに向ける。
今の俺の発言は、すべて本心だ。イーネスといると、楽なのだ。
それが、イーネスが、俺が元居た世界と、そこで起きた俺にとっては最悪の出来事とは全くの無関係だからなのか、それとも単に波長が合うからなのかは分からないが。
「うむ、そうか。感謝するぞ、ユヅキ。その言葉に偽りがないことを信じている。では、今日のところは以上だ。下がってよいぞ」
「はい、お父様」
「お邪魔しました。これからよろしくお願いします」
「うむ、こちらこそ頼むぞ。年端も行かぬそなたには荷が重いかもしれんが、我が国、そして世界の命運はそなたの肩にかかっているのだからな」
世界の命運、か。果たしてそんなものが、俺に背負いきれるのか。
よく映画とかドラマとかでは、主人公がホイホイ世界の命運を背負ったり背負わされていたりするが、それは架空のものであって、少なくとも今の俺くらいの重みはないだろう。
しかも、俺の場合はその荷が重すぎて、一周回って全く重さを感じない。というか、実感できない。何しろ、「次の日が期限の重要書類を担任に忘れずに提出する」規模の責任問題の話ではないのだ。
しかし、一度決めたことである。そう簡単にあきらめる気は毛頭ない。幼少の頃より古武術で教えられてきたことが染みついているのである。つまり、俺は割とあきらめが悪い。かといって、死にたいわけでもない。こうなるとあとは必然的にやるべきことは見えてくる。
強くなること。これが、現状での最適解だ。魔法だのスキルだの分からないことだらけだが、それも含めて一歩ずつ着実に、だ。
思考がまとまり、決意の意味を込めて王様の目を見返す。俺の意思が伝わったのか、王様は満足そうに頷くと、今度はイーネスに指示を出した。
「イーネス、改めて今回の役目、ご苦労だった。ユヅキを屋敷まで案内したのち、そなたも休むがよい。爺やには話は通してある故、細かいことは案ずるな」
「はい、わかりました。では、失礼します。ユヅキ、行こう」
「うん。では、また来ます」
俺はぺこりとお辞儀をし、イーネスとともに『玉座の間』、そして王城を後にした。
向かうは俺の新たな住居となっているらしい、屋敷だ。
お屋敷とか住んだことはおろか、本物を見たことすらないので、ちょっと楽しみである。
俺は、胸の高鳴りを自覚し、膨らむ好奇心とともにイーネスの後に続いた。
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