それは夢のような本当の話 7.カギ、もしかして月旅行
「それで、どうなったんですか?」
僕は勢い込んで尋ねた。
「うーんとね、新幹線ホームで駅員さんに取り押さえられてた」
ハジさんがとぼけた表情で言う。
「まじですか?」
「うん、まじ。いやあ、あの時は、まじでお説教喰らったなあ」
ハジさんはそう言って楽しそうに笑う。
「それで彼女さんは?」
「そのまま新幹線で関西に行ったよ」
「えーと、それって、やっぱり夢だったんじゃ?」
「でも、彼女も同じ体験したんだよ」
「それは、不思議ですね」
ハジさんの話は途中から不思議だらけでこれがほんとのことだと言われても正直よく分からなかった。
「そのあともいろいろ経験したしね」
「例えば?」
「タイムリープとか、月旅行とか、宇宙人とか」
「は? なんですそのSF世界?」
「うん、まあ、なんかいろいろあって……」
「その、それって結局どうしてそうなっちゃうんですか?」
「どうしてと言われると困るんだけど、どうすればについては分かってるんだ」
「ほんとですか?」
「うん。カギは、これなんだ」
ハジさんが自分の右手を広げて見せてくる。
「手のひら?」
「うん。だけど僕の、だけじゃなくて、僕と彼女の手のひらかな」
「それって」
「そう。二人で同じ事考えながら手を繋ぐと起こる」
「はあ? まじですか」
「もう、大まじだよ」
僕はもう一度ハジさんの手のひらをまじまじと見つめた。
「これ、今、僕がハジさんの手を握ったら、不思議なことが起こるんでしょうか?」
「いや、それは大丈夫だと思うけどね。もちろん言い切れないけど」
「ははあ」
「でも、それでいつも苦労したんだよなあ」
ハジさんが苦笑しながら言う。
「なにをですか?」
「彼女とは示し合わせて同じ大学に進んで、ようやく付き合いだしたんだけどね。デートの時に安易に手を繋げなくって」
「繋いだらどうなっちゃうんですか?」
「突然、知らない町に放り出されたりして、あとで調べたら、直前に二人で見てた雑誌に載ってた町だったりして」
「それは……大変ですね」
「うん、まあ、二人ともそのうち慣れて、繋ぐ前に合図したり、なんなら行きたいとこ言ってから繋いだりしたけど」
「ははは」
いつのまにか4時間ぐらい居酒屋で話していた。もう閉店と言う事で店を追い出された。今日はホテルに泊まるというハジさんを改札口まで送っていった。
「今日はありがとうございました。めちゃ楽しかったです」
「こちらも会えてよかったよ。それに僕の夢のような話をちゃんと聞いてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「それじゃあ、またブログで」
そう言って、ハジさんが手を差し出してくる。僕はほんの少しだけ逡巡して彼の手を握った。もちろん、なにも起こらなかった。ハジさんは笑って改札に消えていった。その姿を見送りながら、今度会ったときには月旅行の話を聞こうと思っていた。
了
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