それは夢のような本当の話 3.隣り合わせ
「また隣だね」
「うそだろ? またかよ……」
クラスの席替えがあって新しい席に着いたら隣に沙耶がいた。これはもう絶対誰かの陰謀だと思うんだ。だって、こんなことありえない。小学校から中学校まで、いつも沙耶と同じクラスで、しかも何度席替えしてもいつも隣り合わせなんて、おかしいだろう?
「くそう、くじ運悪すぎだ」
「そう? むしろ、いい方だと思うけどな」
隣の席から屈託なく沙耶が話しかけてくる。そんなだからみんなに夫婦呼ばわりされて、からかわれるんだ。まったくもういやになる。
「いやなの、元(はじめ)くん?」
「いやに決まってるだろ! それからもう中学生なんだから名前で呼ぶのやめろよ」
「えー」
沙耶はちょっとふくれて見せて、でもすぐに何もなかったように笑顔になった。その笑顔がなんとなく眩しくてそっぽを向いてしまう。いつからだろうな、沙耶の隣にいることが落ち着かなくなったのは。でも、そんな想いはすぐに始まった授業に紛れて消えていった。
「ったく、なんで帰り道まで隣り合わせかねえ」
学校の帰り道、なぜか部活帰りにばったり一緒になった俺たちは、当然同じ方向に帰ることになるわけで自然と口からぼやきが漏れる。
「べつにいいんじゃないかな?」
隣をひょこひょこ歩きながら沙耶が笑顔を向けてくる。昔から変わらない好奇心いっぱいの瞳だ。その瞳が道の反対側に寝そべっていた白猫を見つけて閃いた。
「あー、ネコちゃんだ!」
言ったが早いか彼女は駆け出していた。まったく、まるで好物を見つけて駆け出す猫みたいだ、と思ったその時、背後で大きなクラクションが鳴った。驚いて振り返るとすぐ近くに車が迫ってきている。慌てて沙耶を見ると音に驚いたのか路上で立ち止まっていた。やばい! カッと胸が熱くなって後先考えず飛び出した。立ち止まっている沙耶の手をつかむ。そのまま走り抜けようとして、でもびっくりするほど間近に車が見えた。あ、これ、ダメかも……と思った瞬間、世界が色を失った。
「え?」
まるでモノクロ映画のような世界。近づいてくる車の動きもカタカタとスローモーションのように見える。あー、なんかこういうの死ぬ間際に見るとか聞いたことあるなあ、とか言う場違いな感想が浮かぶ。思わず彼女の方を見ると彼女もびっくりした表情で俺の顔を見つめていた。
「走れ!」
叫んだ。はっとした彼女を引っ張ったとたん体が宙を飛んだ。
「わあ!」
車の衝突で吹っ飛んだ……わけではなく、浮遊感に包まれる。気が付いた時には道路を渡り切っていた。直後にゴーっと車の通りすぎる音が聞こえる。サーと血の気が引いてきた。つないだ手から彼女の震えが伝わってくる。
「だ、大丈夫か、沙耶?」
なんとかそう聞くと、彼女がうつむいていた顔を上げた。青ざめた表情、震える唇が動いた。
「……死ぬかと思ったあ」
「ほんとだよ」
二人してしばらく動けなかった。ただ繋いだ手から、お互いの生きてる温もりを感じられて安心できた。
しばらくして落ち着いてから一緒に家に帰った。二人とも一言も話さなかった。心の中では、さすがに今回のトラブルはやばかったと思っていた。それにもかかわらず俺は、初めて彼女と隣り合わせだったことを感謝していた。よかった。ほんとうに。
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