それは夢のような本当の話 1.初めてのオフ会

 その人に初めて出会ったのはネットの中だった。自分の書いたお話をブログに綴っていたら、アップするたびに感想をくれる人がいて、僕のこんな拙いお話に付き合ってくれて申し訳ないやら、うれしいやら。お礼にその人、ハジさんのブログにお邪魔したら、なんと彼も自作小説をアップしていて同好の士を見つけて嬉しくなってしまった。それからお互いにアップするたびに読みあうようになった。彼の書くお話は、なんだかちょっと幻想的で、でも切ない青春物語で、よくこんなお話が書けるなといつも感心していた。

 そんな彼があるとき仕事で近くに出張してくるという。それを聞いて思い切ってメッセージを送った。

「よかったら会いませんか?」

 彼からの返事は

「仕事終わった後で良ければ」

 一も二もなく同意してその日を迎えた。地元の駅で待ちながらちょっとドキドキしていた。一度も会ったことはないけれど良く知っている人。でも実際にはどんな人だろう? 期待と不安。お腹の辺りがソワソワしてくる。約束の時間が迫って電車が到着したのか改札から人があふれ出てくる。目印に季節外れのうちわを持っている僕をうまく見つけてくれるだろうか? そう思って出てくる人を眺めていてもそれらしい人はなかなか現れない。そのうちだんだん改札を通る人が少なくなってきた。次の電車かな? と思い始めた頃、遅れて改札にやってきたその人に目が行った。年のころはアラサーの僕より十は上なんじゃないだろうか。落ち着いた雰囲気の人だった。その人が僕のうちわを見るなり柔らかく微笑んだ。そうするといっぺんに若々しく見える。彼は手を挙げて

「ムーさんですか?」

「あ、はい」

「ああ、よかった。お会いできて嬉しいです」

 ニコニコしたその人懐っこい笑顔に僕はホッとする。うん、今夜は楽しくなりそうだ。


 駅前の居酒屋に入って、さっそく乾杯。

「初めてのオフ会に!」

「カンパーイ!」

 僕らは初めて会うとは思えないほど楽しくおしゃべりした。初めてなのに知っている。なんて不思議な感覚。そういえば

「ハジさんの書かれる小説って、なんだか不思議ですよね」

「そう?」

「ああいうのって、どうやって思いつかれるんですか?」

「えーとね……」

 そこでハジさんが少し悩んだ顔をした。

「あ、企業秘密なら別にいいんですけど」

 僕が冗談めかしてそう言うとハジさんは思いの外まじめな表情で

「いやまあ言ってもいいけど、信じないんじゃないかな」

「どういうことでしょう?」

 首を傾げた僕に彼は静かな声で言った。

「あれはね、全部本当のことなんだ」

「……え?」

 頭の中に浮かんだ彼のお話と全部本当のことという言葉が結びつかなくて一瞬思考が停止する。

「いやだって、そんな……」

 僕の戸惑いに彼が申し訳なさそうに口を開く。

「信じられないのはもっともだと思う。でも世の中にはそんな夢のような本当のお話もあるんだよ」

「そうなんですか?」

 まだびっくりしながらそう言うと

「もちろん脚色もあるんだけどね」

「そうなんですか?」

 あまりのことに同じ言葉しか出てこない。

「あの……どこら辺が脚色で」

 ようやくそんな言葉を絞り出すとハジさんは

「じゃあ、初めから話してみようか」

 そう言って語りだした。そうすると居酒屋の喧騒が急速に遠ざかって僕はなんだか夢見心地で彼のお話に耳を傾けたのだ。


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