第51話


「みんなお疲れさま!」


四人が大学校の闘技場に帰ってくると、まずエリンが駆け寄ってきた。


「すごいすごい! 四人ともすごかった! 最初はどうなることかとドキドキしたけど…無事に帰ってきてくれてよかったー!」


興奮冷めやらぬと言った様子で早口でまくし立てるエリン。

それに苦笑して落ち着かせるようにカレンは話した。


「もう、興奮しすぎよ。あたしの方はジルが頑張ってくれたから無事に帰ってこれたって感じ」


「そうかな? でも、あの雷の矢みたいなのかっこよかったよ!」


「ありがとう。あれも偶然できたみたいなものだから…これからもっと練習して強くならないと!」


カレンは次の目標を決め、ぐっと拳を握ってやる気を見せる。

その様子に、アイシャに憧れを覚えた自分のようだとエリンは自分を重ねた。


「キャロルの方は、なんかすごいゴブリンがわらわらしてたけど…」


映像で見ているだけでも背筋がぞわぞわしたというのに、実際に体験したキャロルはトラウマになっていないのだろうか。


「あはは…私も、ラシューさんがいなかったら大変なことになっていたと思います」


ついさっきまでの光景を思い出して一瞬遠い目になったキャロル。

それでも無事に帰ってくることができたのはラシューのおかげだと笑った。


「…別に僕は大したことしてないです」


エリンとカレンとキャロルが集まって会話していたところで、ラシューに飛び火する。

カレンはフードを取ったラシューを見て目を丸くした。


「え、ていうかあなた、フード取ったらすごい美人じゃない! どうして今までフードしてたの? 絶対取っていたほうがいいわよ」


「うんうん。その方が絶対モテる! 映像見てたけど、強いし美人でかっこよかった!」


「ありがとうございます。でも美人はやめてほしいです。僕は男ですから」


そうは言いつつ、フードを被り直したりしないところを見るにラシューも少しは周りと関わろうと決めたのかもしれない。


「ジル、おかえりなさい。結構楽しそうだったじゃない?」


一人蚊帳の外で状況を見守っていたジルにアイシャが歩み寄る。


ジルは先ほどまでの戦いを思い返して、楽しかったと同時に、よくわからないことも少し増えたと微妙な顔で頷いた。


「まあね。あの阿修羅ってやつも、ミュゼルよりは弱いけどなかなか強かったよ」


「そう…やっぱり出なくて正解だったわね。映像を見ていたけれど、大したことなさそうだったもの」


戦闘狂のような雰囲気をにじませて言うアイシャ。

彼女からしてみたら、せっかくジルの母に鍛えられているのだからその実力を確かめてみたいという気持ちがあるだけなのだろう。


けれど、ジルの母を基準で考えてしまうと大抵の相手は弱いものいじめになってしまう。


「そりゃあメインは謎解きのステージだからな…とは言っても、謎解きは全然してないけど」


そう言って苦笑するジル。


実際謎解きのようなものは最初の部屋の仕掛けくらいで、その次は正直どの扉を開こうと変わらなかった気がするし、阿修羅は謎解きですらなかった。


けれども、他の人たちが仲良さげに話している様子を見ると、チームの絆が深まったのならそれでいいかと思う。


「あのラシューって子、結構おもしろそうよ。もしかしたらあなたともいい勝負するかもしれないわ」


「へえ、そうなのか? 俺も映像が見れてればなあ。…っと、そういえばガジは?」


「姿が見えないわね? さっきまではいたのだけれど…」


一体どうしたというのだろう。

トイレに行っているだけとかであればいいのだけど。


第二戦でも勝利を収めたジルたち青チームとは違い、他のチームの人たちの雰囲気はあまり良いものとは言えなかった。


ゴブリンにさらわれていた男は身体を震わせて再起不能といった様子だし、緑チームでは負けてしまった選手が残っていた選手に責められている。


黄チームだけは特に何も変わらない様子ではあったけれど、少しピリピリしているようではあった。


「みなさんお疲れさまです」


闘技場に響くセンコウの声。

次の対戦の内容はどういったものなのか説明されると皆がセンコウの声に耳を傾ける。


注目されたセンコウは全員の注目を浴びても気にした様子もなく話を続ける。


「第二戦は、青チームの勝利です。


それでは、次の対戦の説明をさせていただきます。

なお、次の対戦までは休憩はありません。


第三戦は、各チーム三人選手を出していただいて、総当たりでのトーナメント戦を行いたいと思います。


第三戦では、チームの成績は関係なく、個人の成績に影響します。

選ばれた人は評価が上がる、というものではなく、一定以上の戦績を納めることができた者のみ評価されるというシステムになっていますので、もしアピールしたい人がいるならば進んで参加してみてはどうでしょうか。


十分後に抽選を始めたいと思いますので、各チーム選手の選定をしてください」


そう言ってセンコウは闘技場の中心で立っている。

選ばれた人は中心に集まれ、ということだろうか。


次はどうしようかと考えているところで、ガジが戻ってきた。


「おかえり、ガジ。どこ行ってたんだ?」


「あ? ちょっと用を足してきただけだ」


「そうか。それはそうと、次はトーナメント戦らしいけど…出るよな?」


「ったりめえだろ。何のためにここにいると思ってんだよ」


戦う準備は既にできていると歯を見せて笑う。

こういう気概に溢れている人が一人でもいると集団の雰囲気が底に落ちたりしないので重宝する。


「じゃあ一人はガジで決まりってことで。残ってた二人は?」


「私は出なくてもいいかな。戦いたいわけじゃないから」


「私は興味あるわ。特に、緑チームのぼーっとしてる子と戦ってみたいわ」


「じゃあアイシャは出るってことで、エリンは参加しない、と。


そうなると、さっき迷路に行ったメンバーから一人出さなきゃいけないんだけど…キャロルとラシューはあんまり乗り気じゃないっぽいな」


ジルが見渡した瞬間に目を逸らすラシューと、愛想笑いで切り抜けようとするキャロル。


「僕はもう十分働いたので…」


「私はこういうトーナメントには向かないから…」


キャロルが一対一の戦い向きじゃないのはわかるけれど、ラシューは案外いけそうな気がするんだけどな。

アイシャが映像を見ていておもしろそうと言ったほどだからな。


「本人がそう言うなら無理強いは無しだな。俺かカレンなんだけど…カレン、ここは俺がいってもいいか?」


「うん、任せる。あたしはまだ魔力が回復してないからね」


残念そうに首を振るカレン。

できることなら新しくできた魔法と、ついでに思いついた魔法を試してみたいという気持ちはあったけれど、無理はしない。


「おし、じゃあ俺とガジとアイシャで優勝取ってくるよ」


「トーナメント戦だからなァ。ジライアス、恨みっこ無しだ」


「当たり前だろ。もし当たっても手加減なんてしないからな」


「手加減なんてしたら喉をかっ切ってやるから覚悟しとけ」


拳と拳を合わせて、本気で戦おうと話すジルとガジ。それを見ていたアイシャは特に何を言うこともなくスタスタと闘技場へ降りていった。

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