第52話


ジルとガジが闘技場へ降りると、センコウがみんな集まったと頷き、第三戦でのルールの説明を始めた。


「みなさんお集まりいただきありがとうございます。


抽選の前に、ルールを説明させていただきます。

制限時間は各試合十五分。

相手に降参させるか、相手の意識を奪ったら、その人の勝利となります。


また、闘技場には特殊な結界が張ってあるため、結界の中で命を落とすことはありません。

身体が欠損するようなダメージを負ったとしても、精神ダメージに変換されるので問題ありませんが、対戦中はその部位が動かせなくなるので気をつけてください。


決勝戦は、勝ち上がった三人でのバトルロワイアルとなります。一対一の戦いではないので心に留めてください。


最後になりますが、制限時間が来ても勝敗が決まらない場合は大学校側の判断で勝者を決めさせていただきます。


それでは、抽選を始めます」


流れるような説明の後、センコウが手元にある端末を操作すると空中に文字が浮かび上がった。


「厳正なる抽選の結果、対戦相手は次のようになります」


第一試合 ガジ・フェンネル vs ピック・マトン

第二試合 ザ・ルー vs コーザ・ショワ

第三試合 アイシャ・ジオール vs クィン・レマーノ

第四試合 マーレ・ミキルトン vs グエン・ノービス

第五試合 ホマン・ゴンドレ vs チェイル・シトレン

第六試合 ジライアス・ハウンド vs クォンス・サルバ


「俺ァ第一試合か。やっと暴れられるぜ」


最初だと聞いて緊張した様子もなく、高まりつつある気持ちを良い感じで維持しているガジ。


「俺は最後か…他の人の観察をできるっていう点では恵まれてるけど、次まではあんまり休めなさそうだな」


「私は第三試合…相手が誰なのかがわからないわね」


周りを見渡してみても名前と顔が一致しないので意味がない、と思いきや、真っ直ぐにアイシャを見てくる女の子が一人。


「あの子がクィン・レマーノかしら?」


「どうだろうな。でもアイシャは顔が売れてるから…多分そうなんじゃないか?」


「ふうん。…楽しめれば良いのだけれど」


「おいおい…あ、ガジ、頑張れよ! 俺らは一旦観客席で待ってるから!」


ジルはガジに一声かけ、踵を返して先に観客席に戻ろうとするアイシャを追う。

ガジはひらひらを手を振って二人を見送った。


第一試合に出場する選手以外の人が闘技場を去り、ガジともう一人の少年だけが残った。おそらくあの少年がピック・マトンだろう。


「よろしくお願いします」


「ああ」


歩み寄ってきて握手を求めてくるピックに応じて、手を差し出すガジ。

握った感触では近接で戦う人の手はしていなかったから、魔法使いかもしれないと思い何となく観客席のアイシャを見る。


彼女くらいの使い手が来たら勝てるかどうかわからないが、早々あんな化け物じみた奴が出てくるわけないかと思い直した。


互いに手を離してある程度の距離を取る。


ピックは立ったまま動かず、ガジは腰を落として構えた。


「それでは第一試合、始め」


センコウの無機質な声が聞こえたと同時に、ガジは空を裂くような音が聞こえたため真横に飛ぶ。


先ほどまで自分がいたところに浅くではあるけれど、何かで切った跡が残っている。


「風の魔法かァ」


「はい、僕は風が得意なので」


避けたガジを再度襲う不可視の風の刃。

ガジは持ち前の感覚でそれらを把握して避けていく。


よく見れば歪んで見えるし、空を裂く音が聞こえているのでどのくらいの距離感なのかはわかる。


「…たいしたことねえな」


「それはどうでしょうか」


ふと、ガジが足を踏み出して避けたところ、足に薄い切り傷が生まれる。


「あん?」


ぐっと足に力を込めるとすぐに血は止まったが、ガジは首を捻る。


風の刃は当たっていないのに、自分の足が切られた。そのカラクリがわからないとあいつに近づくのはまずい気がする。


そんな予感がガジの脳内にはあった。

拾った石をピックに向かって投げてみると、ピックは一歩も動かず、石が細切れになって落ちた。


「なるほどな」


「そんな余裕でいいんですか?」


「所詮はその程度か」


おそらくピックはごく薄い風の刃をそこかしこに設置しているのだろう。

薄いが故に目では感じ取れないが、殺傷力は低い。


大量出血からの降参や気絶を狙ってるのかもしれないが、この程度だったら傷が治る方が早い。


ガジはチラリと自分の足を見ると、傷が塞がっているのを確認した。


「突っ込んだ方が早えな」


自分を薄い風の刃が切りつけてくることも厭わず、ガジはピックに向かって直進する。血に塗れてなお向かってくるガジにピックは青い顔で魔法を乱射する。


確かに血塗れの男が鬼のような表情で向かってきたら恐ろしいだろうな。


「うわ!! 来るな!」


制御されていない魔法は魔法とは言えない代物と成り下がり、ガジは素手でそれらを叩き潰す。


「これで終わりだ」


ガジが腕を振り上げると、にやりとピックが笑う。


「ええ、終わりです」


その表情に何かがおかしいと思った瞬間、ガジの身体が痺れて動かなくなった。

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