第46話
六本の腕を巧みに操りジルを追い詰めようとする阿修羅とそれをひらりひらりと躱し続けるジル。
カレンは外からそれを見ていて、まるで舞を踊っているようだとこんな時だというのに見惚れてしまう。
まるでどこから攻撃が来るのか分かっているかのように避け続けるジルと、シナリオ通りに武器を振るう阿修羅。
そんな風に見えてしまっていた。
そんなことは露知らず、ジルは躱し続けても勝てるわけではない、そろそろ終わりにしようと剣を持ち直した。
ジルの雰囲気が変わったのを敏感に察知した阿修羅は武器を振り回すのをやめて一旦距離を取った。
「…小僧、それはなんだ?」
「ああ、これ?」
阿修羅の視線はジルの手に握られている黒い直剣に固定されていた。
何の変哲もないただの真っ直ぐで黒いだけの剣。
そう思っていた阿修羅だが、一瞬何かを感じた。
「これは俺の家に伝わってる剣だけど? 特に何があるわけじゃないけど、軽くて丈夫ってだけ」
「…ククク。小僧、気付いていないのか?」
「何を?」
急に笑い出す阿修羅を不審な顔で見るジル。
阿修羅は誤魔化す必要もないのでただ自分が感じた真実を告げる。
「その剣、生きておるぞ?」
「…お前、何を言ってるんだ? 剣が生きてるわけがないだろ?」
「よいよい。気づかないのならそれはそれで。その剣も今は眠っているようだしな」
暗にお前は鈍いやつだと言われてジルは少しばかり不愉快になるも、黙って構える。
それを見て阿修羅も顔の笑みはそのまま静かに構えた。
駆け出したのはお互い同時。
速度でジルが勝り、力を込めて剣を振り抜いた。
ジルの手に伝わってきたのは、固い肉を斬り裂く感触。
何度味わっても気持ちの良いものではなかった。
「はっ!」
「グウゥ!」
ぼとりと何かが転がった音が響く。
見ると、それは阿修羅の腕であり、彼は斬られた腕の部分を抑えていた。
ぼたぼたと青黒い液体が彼自身と地面を濡らす。
ジルは剣を振って付いていた液体を払い、再び構える。
「あと五回もすればお前の腕は全部なくなるだろう。それでもやるのか?」
「笑止!! この阿修羅、戦場で怯えることなし!」
無くなった腕を庇うのをやめ、残りの五本の腕で武器を構える阿修羅。
その顔は自分が死ぬだろうということを分かっていてなお戦うことが生きがいなのだと伝えていた。
それを見たジルは、せめて一瞬で終わらせてやろうと、強化の倍率を上げる。
「これほどの強者と戦い死ぬは本望!」
叫び向かってくる阿修羅に、ジルは心を揺らさずただ無心で剣を持つ。
決着は一瞬でついた。
ジルに阿修羅が近づいた瞬間、阿修羅の腕が全て吹き飛び、剣はそのまま首へと流れるように動いた。
それを見た阿修羅は避けようともせず、ただ静かに目を閉じたのだった。
阿修羅だったものが倒れ伏し、光となって消えていく。
それを見てやっと、ジルとカレンはこの戦いが終わったことを実感した。
カレンはやっと回復してきた身体を動かして、ジルへと歩み寄る。
ジルは剣を懐にしまい、阿修羅が光となって消えるのを見ていた。
「…強かったわね」
「まあね。今まで戦った中でも上位に食い込むくらいには」
「いや、阿修羅じゃなくて、あなたがよ」
カレンは苦笑してジルの肩を突く。
「最後なんて、私の目じゃ阿修羅が一瞬でバラバラになったようにしか見えなかったもの」
「やったことはただ剣で斬っただけだから間違ってないよ」
「だとしても、あの速度で斬れるのが異常よね」
カレンは途中からジルと阿修羅の戦いを目で追うことができず、結果阿修羅がバラバラになったということしかわからなかった。
武器が擦れるような音が四方八方から聞こえ、瞬きをしたら打ち合っている位置が変わっていたのだから、後衛の自分では追いきれないのも仕方ないとため息をつく。
「…あれくらいならアイシャもできるんだけどな」
「何か言った?」
「いや? なにも?」
「…そう?」
ぼそりとジルが呟くが、カレンの耳には入らなかったらしい。
もし同じ後衛のアイシャが同じことができると言ったら自信を喪失させてしまうだろうから、聞こえなくてよかったのだろう。
「さて、次の謎はなんなんだろうな?」
「謎っていうか、これって完全に戦闘だったわよね…?」
阿修羅が出てきた入場口が入ってくれと言わんばかりに開いている。
今回は頭を使うだけだと思っていただけにこの疲労はカレンには予想外だった。
次の対戦は絶対に休もうと心に決め、扉を潜ろうとした瞬間、アナウンスが響いた。
『青チーム、ラシュー・ドヴルゴスがゴールしました。よって第二戦は青チームの勝利となります。
皆さま、お疲れ様でした』
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