第40話
第一戦を終えたジルたちは、ひとまずは勝ったこともあって雰囲気良く休憩時間に入った。
ガジは不完全燃焼のようで少しばかり不満そうにしていたものの、それを口に出すことはなく、次の対戦が何なのかが気になっている様子だ。
対戦が終わったジルたちは観客席で観ていたカレンのもとに合流する。
途中から観ているだけになっていたカレンは少し申し訳なさそうにしつつも、笑顔でみんなを迎えた。
「お疲れ様、エリン、アイシャ! 最後すごかったよ!!」
「ありがとうカレン。といっても、ほとんどアイシャのおかげだったけどね」
「そんなことないわ。キャロルがみんなを守ってくれていたおかげよ」
「そ、そんな…私なんて大したことしてないです! でも、褒めてもらえるのは嬉しいかな…」
恥ずかしがりつつ控えめに喜ぶキャロルを見たエリンはキャロルの頭を強めに撫でる。
「可愛いやつめ!」
「わ、や、やめてください! 髪がぼさぼさになるじゃないですか〜!」
口では嫌がりながらも逃げないところを見るに、そこまで本気ではないのだろう。他の人とスキンシップを取っているのをうれしがっているようにも見える。
「次の対戦はなんだろうなァ」
早く戦いたいと闘争心むき出しになっているガジ。単身突っ込んでいきながらも攻撃に擦りもしなかった実力は本物だ。
おそらく二次試験が終わってから元々高かった身体能力をさらに鍛えてきたのだろう。よく見ると身体が絞られているのがわかる。
「さあ…さっき身体動かしたから今度は頭を動かす系かもな」
「けっ! 頭使うだなんてやってられるか! もしそういうの来たら俺は出ねえぞ」
戦うことが好きそうなガジらしい意見だとジルは苦笑する。
けれど戦っている時の動きを見るに頭はそこまで悪くなさそうでもある。おそらく単に性に合わないというだけだろう。
「あら、単細胞らしい意見ね」
「んだとテメエ!」
「さっきも一人で敵に突っ込んで行っていたし、もしかして突っ走ることしか脳がないのかしら?」
「上等だ…次に何が来たって出てやるよ! 頭だろうが身体だろうが使ってやろうじゃねえか!」
「いいのよ、無理しなくて。分業って大事だものね」
「できるって言ってんだろ!」
対戦の後で疲れてるというのに、またガジとカレンは口喧嘩を始めた。
「これ、大丈夫なの?」
「ん? ああ…二次試験で顔を合わせた時からこれだから。でもちゃんとやる時はやるし大丈夫だよ」
「ならいいけど…」
初めて見るとどうしようかってなるのもわかるんだよな。とジルはしみじみと頷く。エリンとアイシャは興味ありげに二人の口喧嘩を見学している。
ジルは一人誰とも会話していないラシューに歩み寄って、隣の席に腰掛ける。
「よっと。さっきの、どうだった?」
「さっきの…どうって言われても。僕はただ立っていただけなので」
眠そうに欠伸をするラシュー。
「対戦中も眠そうにしてたけど、寝不足か?」
「眠気があるのは間違い無いですけど、寝不足ってほどではないです。大丈夫です、みなさんに迷惑はかけませんから」
「迷惑とかは気にしないでいいんだけどな。それはそうと、ラシュー。君って何が得意なんだ?」
「得意?」
ジルの質問にラシューは首を傾げる。
「そうそう。例えばガジみたいに格闘ができるだとか、アイシャみたいに魔法の制御が得意だとかそういうの。
俺は何が一番自信あるかって言われたら隠密なんだけど…見せても気づかれないから、みんなには近接も魔法もそれなりにできるって言ってるんだ」
「なるほど。そういうのでしたら、僕は戦闘全般からっきしって言えますね。
本当は法学院に行くはずだったのに…親が手続きを失敗したらしくて。
だからあなたが期待するような特殊なことは何もないですよ」
「戦闘全般からっきし? そうは見えないけどな…」
「…僕が嘘を言っているとでも?」
「ああ、いや、そういうわけじゃないんだ。でもさっきさ、俺がアイシャを守るために動いたの見えてただろ?」
「……」
ジルの言葉に対して何も答えを返さないラシュー。
その沈黙が答えだった。
「近くにいたキャロルやガジも気付かないように動いたつもりだったんだけど、ラシューは俺がどこに行ったのか見てたよな?」
「…偶然見えていただけですよ」
頑なに認めようとしないラシュー。それに何か理由があるんだろうなと深くは聞かないことにしたジル。
これ以上何か抱え込んでも処理できそうにないため、問題にならなさそうなものは関わらないほうがいいと判断した。
「そっか。上から目線かもしれないけど、さっきの俺の速度が見えているんだったら、相当できるようになるかもしれないよ」
そう告げてジルはラシューから離れた。
「……僕は、別に戦えなくたっていいんだ」
残されたラシューはおもしろくなさそうにジルの背中を見送り呟いた。
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