第15話


「やあやあ、お疲れさま! 第二試験合格おめでとう! これで最後の試験までいけたってことだね! いやそれにしても剛魔相手にすごかったね〜! 戦い方、どこかで習ってたの? 他の子も頑張ってたけど特にジライアス君? 最後のは圧巻だったね〜! あ、映像見る?すごかったんだから!」


第二試験を終えた俺たちを待っていたのは、最終試験への挑戦権を得たという事実と、おかしな男の歓迎だった。


光に包まれて教室に戻ってきた俺たちは、先ほどまでの戦闘がまるで嘘だったかのように健康体で、気を失っていたガジとカレンは目を覚ましていたし、キャロルも風邪が治っていた。


あれから何があったと話し合う間もなく四人バラバラに連れて行かれ、俺は小さな会議室でこの胡散臭い男と缶詰め状態。俺が何したってんだ。


「あの」


「ん、なにかか? ひょっとして他の受験者たちの様子を見たいって? それは駄目だよ、だって次の試験で不公平になっちゃうもん」


そういうのが知りたいんじゃないんだけど、どうやら次の試験は受験者同士で何かするっていうことなのか?


ヘラヘラと笑いながら聞いてもいないことをペラペラと話し続ける男。こいつは一体なんなんだ?


「悪いけど、あんた誰?」


「それにしても変形による進化を遂げた剛魔を真っ二つだなんてなかなかできるもんじゃ…あ、僕? 僕は大学校で研究活動に勤しんでいるシシ。今回の試験で魔物生成の魔法陣の提案をして、それが採用されたからデータ解析ついでに試験の監督役もしてる」


「魔物生成…っていうと、あの剛魔もそれか?」


「そうだね。いやあすごい! 魔法陣は自動で受験者たちのデータを収集し、その戦闘力をもとに勝てるかどうか…くらいの魔物を作り出すんだ。まあ、描くのに時間がかかるっていうのが難点だけど、試験に使うには丁度いいんじゃないかな?」


「勝てるかどうか…」


あの剛魔、それほど強い奴には見えなかったけど、魔物の中には進化をしてさらに強くなっていく奴がいる。もし、進化の結果剛魔がどこまでも強くなるような魔物だとしたら…恐ろしいことになってたかもしれないな。


「剛魔は完全に進化して君の強さに届く前にやられちゃったみたいだけど、僕としては君のデータが取れて大満足! あー、倫理的な価値観さえなければ君を解体して隅から隅まで実験体として活用したのに…」


「…やめてください。それより、シシさん…でしたっけ? 最終試験について説明を求めても?」


「ああ、ごめんごめん。面白そうな子が来たからさ、ついね。えーっと、最終試験は明日、闘技場にて行われます。受験者にはその旨を伝え、今日はこれで試験終了。宿舎に向かうように伝えてください…だって。あ、この紙いらないから持ってっていいよ〜。…おっと、もうこんな時間だ! じゃあ僕は会議があるから!」


シシは机の上にあった紙を俺に押し付け、そそくさと会議室を出ていった。


押し付けられた紙には大学校の簡単な地図と宿舎への道。それから二次試験合格者のしおりがあったので、パラパラとめくる。


「『二次試験合格おめでとうございます。今回の最終試験の内容は、受験者同士でチーム戦を行っていただきます。お題に添ったメンバーを決めていただき、どちらがより優れているかを競っていただきます。

最終試験では、あなたにどの程度の素養が備わっているかを見ます。それによっては受けることのできる授業の種類が増加する、もしくは減少することになります。それでは、健闘を祈ります。』」


なんか、めんどくさそうな試験だな。でもこれを見た感じ、ここまで来たらよほどのことがない限り大学校に入学するのは決定ってことか。


つまり当初の目標は達成したってことだな。あとは余計なことをして目をつけられないようにすればいいんだけど…まあ大丈夫か。


とりあえずは地図に従って宿舎に行こう。そう思って会議室のドアを開く。


「あ」


「あら、ジル。そんなところにいたの? 随分探したのよ…ってどうしてドアを閉めようとするのかしら? もう用は済んだんでしょう?」


偶然目の前を通りかかったアイシャと遭遇。反射的にドアを閉めようとするが、アイシャに足を挟まれて失敗。


「いや、ビックリして。わざとじゃない」


「嘘よ。ジルったら昔からいたずらばっかりだったんだから。そのせいでお母様にたくさん叱られてたじゃない」


俺が叱られていたのはいたずらをしたことではなくアイシャを巻き込んでいたことだ。正しくは巻き込んでいたんじゃなくて巻き込まれていたんだけどな。


「あれはいたずらしてたから叱られてたわけじゃない。それより、どうしてここに?」


「ジルを探してたのよ。聞いたわよ、キャロラインと同じ班だったんですってね」


「…ああ、そういえばお前ら知り合いなんだっけか」


「ええ、そうよ。親戚だもの。歳も近いし、関わりも多かったわ。それよりあなた、試験手を抜いていたそうじゃない」


「まあ…全力出さなくても受かるだろうなって思ってたし。実際そうだったし」


「だとしても、それを周りに悟られない努力をしなさい。まったく、昔からすぐに手を抜いて…お父様が心配するものわかる気がするわ。ジライアスはどうしてできるはずのことをやらないのだって言ってたわよ」


どうしてできるはずのことをやらないのか。その言葉は、昔父さんからよく言われたことだ。おそらく、父さんの口から王様に伝わったんだろうな。


「昔から俺が頑張ったら、兄さんに申し訳ないって思ってたんだ。生意気な考えで、しかも勘違いだったけどね」


「馬鹿ね、ジル。エヴィアンがそんなこと気にするわけないじゃない。あの人もあなたのお父様も、ハウンド家にいる人はみんなあなたのことが大好きよ? そして家のことを第一に考えているから、あなたが家に残っているのよ?」


「…それも、前まではおかしいって思ってたんだ。でも、兄さんと話し合って、ちゃんと俺の中で消化した」


「そう。じゃあこの話はおしまい! そうと決まったら早くいきましょう? あ、でも、やっぱりゆっくりがいいわ。…その方があなたと二人きりの時間が多く取れるものね」


くすくす、と笑うアイシャの頬は少し赤みがさしていて、俺はその笑顔を大切に守っていきたいと思った。

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