第12話
「ここです!」
やけに元気なキャロルが案内してくれたのは、ぱっと見ではわからないであろう洞窟の入り口だった。
「よくこんなのがわかったよなァ」
「あ…おじい様に教わったんです。いざという時の拠点の隠し方なんですけど…」
シュタインベルトの当主様はそんなことにも通じているのか。一兵卒から成り上がったわけでもないのに…どこで学んだんだろうか。そういうのは軍の訓練学校で習ったりするのか?
「ふうん。…見た感じ他の人が使ってる形跡はないし、食料を持って移動するのにも限界があるしね。火も使えそうだし、今日はここで野宿だね」
誰かが最近使った形跡はない…が、何かおかしな雰囲気を受ける。
何か隠されているような…気のせいか?
みんなに特に気がついた様子はない。俺の気のせいだったら良いんだけど…こういう勘は外したことがない。
夜中にでも調べてみようかな。
「この中で料理できる人は?」
「俺ぁ無理だ、切って焼くくらいならできるがな」
「あたしもそういうのはちょっと…そんなには経験ないわ」
「あ、私はできますっ」
予想通りガジはできなかったけど、貴族のキャロルができるっていうのは少し意外だったな。カレンはちょっとどっちだか判断がつかなかったけど、できないんだな。
「それならガジとカレンは火起こしと枯れ木を集めてくれ。俺とキャロルで簡単なものだけど食事を作ろう」
「わかった、じゃあ早速行ってくる」
「ちょっと待ちなさい、置いていくんじゃないわよ!」
「いちいちうるせえなあ。黙ってついて来いよ」
「はあ!? だいたい初対面の時から噛み付いてきてなんなのよ!」
「てめえが先に喧嘩ふっかけてきたんだろうが!」
ガジとカレンは言い争いながらも枯れ木を探しに行ったようだ。
さっきまでは中良さそうだったのに急にまた喧嘩し始めて…なんとなくお互いが気に入らないんだろうなあ。
♢
さて、じゃあキャロルと一緒に料理の準備といくか。
「キャロルは料理の経験あるんだよね?」
「あ、あります! 大丈夫です!」
「さっきから思ってたんだけど、なんか少しテンション高くない?」
「え…な、なんかさっきから頭が熱くて…お、おかしいです…か?」
さっきまで元気そうだったキャロルが力が抜けたように倒れ込んできた。
「うおっと! 危なかった…」
「あれぇ…ジルさんが二人…三人……?」
何を馬鹿なこと言ってるんだか。熱を測るために手を額に当てる。なかなかの熱さだな。
「間違いなく俺は一人だ。…とりあえず横になってな」
「はい…すみません…」
母さんに持っていくよう言われたタオルが役に立ったなあ。氷の魔法でタオルを凍らせて首の後ろに当てて寝かせる。
寝心地が悪いのは勘弁してくれな。俺の上着をかけて寒くないようにしておくけど…早く二人帰ってこないかなあ。火があった方がいいんだよな。
えっと、キャロルが採取してくれていた薬草の中になんかないかな…お、解熱に使えるのもあるじゃないか。
切り傷や擦り傷に使うものが中心だったけれど、しっかりそういうのも集めてくれているところで彼女の用心深さが感じられる。
懐から、乳鉢と乳棒を取り出して薬草を潰す。
懐から色々取り出しすぎだって? …魔法を使って空間を拡張してるんだ。他にも色々持ってきているけど、バレたら面倒だし非常時以外は使うつもりはないよ。
ごりごりと念入りに薬草を潰し、ペースト状になったところで一旦置いておく。ここから先は火が必要だから二人が帰ってからにしよう。
「薬はもう少し待ってな。二人が帰ってきたら火も使えるし、風邪引きでも食べやすいもん作るから」
「すみません…本当に、さっきまではなんともなかったんですけど…」
「緊張してたみたいだったからそのせいで余計な疲れが出たんだろ。いいから寝てな」
「はい…」
横になって少し楽になったか、キャロルはそのまま眠ってしまった。
一人がこれじゃあ洞窟を調べることはできそうにないな。いや、ガジに頼んだらやってくれるか…?
どうしようかなあと悩みながら食事の準備をしていたところ、二人が戻ってきた。
「ただいま…って、キャロル!? どうしたの!」
「なんだ? やっぱりそいつ倒れたのか?」
やっぱり、ってことはガジは薄々気が付いていたみたいだな。
最初は協調性のカケラもないやつかと思ったが、意外と周りのことをよく見ている。
「ああ、多分疲労だろうな。薬も作ったし、飲んで休めばすぐに良くなるだろ」
帰ってきて早々に持っていた枝を放り投げてキャロルに駆け寄るカレン。ガジは特に表情を変えずにさっさと火を起こそうと木を組み始めた。
「ていうかあんた、気付いてたんだったら言いなさいよ!」
「明らかに最初と比べておかしくなってただろ。それくらいわかってやれよな。…それより声がでけえんだよ。少し声を落とした方がいい」
「あっ、ごめんなさい…起こしたかしら?」
「…いや、疲れてそれどころじゃないのかもな。深く寝入ってるよ」
「よかった…。本当にただの疲労? 何か危ないもの食べてたりとか…」
「お前じゃねえんだから毒なんて食うわけ…ぐっ…!」
「あんたは黙って火を起こしてればいいのよ」
今のはいい蹴りが入ったな。カレン、ひょっとして近接戦闘もいける感じなのか?
「大丈夫。見た限りだとおかしな症状はないし、休めば良くなるはず…おっ、ありがとうガジ」
「…ああ」
悶絶していたものの、素早く火を起こしてくれたガジに礼を言う。腹をおさえて蹲ってるのはかわいそうだが、自業自得ということで。
二人は枯れ木を集めるついでに水も汲んできてくれたので、その水を沸騰させてお湯にし先ほどの乳鉢の中に注ぎ入れる。これで良くなってくれればいいけどな。
「ほら、キャロル。苦いだろうけど我慢して飲んでくれ」
「ん…」
寝ていたところ悪いが、キャロルを起こして薬湯を飲ませてやる。すごいな、結構苦いはずなのにゴクゴクと飲んでいく。
薬草にも詳しかったし、こういうものを飲むのにはほとんど抵抗がないのかもしれないな。
「あとでまたご飯の時に起こすからそれまでは休んでてくれ」
「はい、わかりました…」
寒くないようにキャロルを火のそばに寄せて、ガジが貸してくれた上着を枕の代わりにさせてもらった。意外といいやつ、ガジ。
とりあえずは火もあるしご飯を作ろう。キャロルのことは二人に任せて、俺は拾ったキノコや山菜を使って手早く炒め物を作った。え、皿とか鍋とか? …懐から出したんですよ。基本なんでも入ってるんで。俺がこれ使えるの父さんしか知らないけどね。
キャロルは起きそうになかったので、とりあえず寝かせたままにして三人で鍋を囲む。
「それで、これからどうすんだ?」
「ああ、そのことだけど…」
『四班合格。残り六班です』
今後について考えがあり、話し始めようとしたところでアナウンス。
「またライバルが減ったか」
「あとがラクになっていいわね」
「…」
「どうしたの、ジル?」
「いや…このアナウンス、何かおかしくないか?」
「「え?」」
雲行きの怪しい第二試験だったが、これで光明が見えたかもしれない。
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