第11話


時は少しだけ遡る。


「穿て!」


カレンは敵の集団に向かって雷の魔法を放つ。と、何故か魔法はジルに一直線に向かっていった。


カレンが直撃して味方を爆散させる…と思った瞬間、ジルは身を翻して魔法を避けた。


「うそ!? ジル、あたしの魔法避けた!?」


「お前頭おかしいだろ、なに味方に向けて魔法放ってんだ!」


思わず小声で叫んだカレンにガジは本当に勝つ気があるのかと同じく小声で怒鳴る。


「いや、あたしが悪いわけじゃ…あの中で一番強そうな人に向かっていくようにしたんだけど…」


魔法の条件は、あの中で魔力が一番高い者に向かって雷を走らせる。だった。

ジルはあまり魔力を感じさせないように隠していたが、それを無意識ではあるが偶然見抜いたカレンにはそれほどの素養があるということだった。


「なるほどな。ってこたぁ、そういうことなんだろ。実際避けたしな…っと、一人やったか」


「ジルが一番強いから向かっていったってことね。…あれ、何で突き刺してるのかしら?」


「魔法だろ。心臓を串刺しってことはとりあえず確実に一人落とすためだろ? 見た感じだともう一人行くだろうな」


「だからってわざわざ心臓…あ、キャロルが見つかったわ。行くわよ、しっかり護衛兼牽制すんのよ?」


「わかってる」


少し遠くからキャロルが逃げ帰ってくるのが見える。必死な形相で逃げているようだが…追手の男たちより足が速いためか、一歩間違えたら振り切ってきそうだ。


「アイツ、あんなオドオドして鈍臭そうなのに意外と足速いんだな」


「黙ってフォロー行く!」


「助けてくださいぃ…!」


「頭下げろォ!」


「はいぃ!」


ガジが叫ぶ。

キャロルは訳もわからず聞こえた声に従って頭を下げると、その頭上を掠めるようにしてガジが放った魔法が飛んでいく。


「ぶっ! …ってえな!」


顔面に魔法が当たった男は一瞬足を止めた。


「やるじゃない」


「これくらいなら誰でもできんだろ。それに、一発だけの奇襲にしかならねえよ。俺の威力じゃ精々足止めがやっとだ」


「それで十分よ」


言うが早いか、キャロルの頭を再び掠めてカレンの魔法が飛んでいく。


「ひぃやぁ!」


「ぎゃあ!」


男の一人がカレンの魔法の衝撃で転がっていった。

転がっていった男は戦闘不能と判断されたのか、光に包まれて消えていった。


「クソッ、俺一人かよ…!」


一人残った男は退くか攻めるか逡巡し、とにかく生き残ることが大切だと判断したのか、退くことを選んだ。


「とりあえず一旦退いて…」


「あっ、そこ…」


バチン!


「え?」


ぺたんと座り込んだキャロルが思わず呟いた。

男の足は先ほど仕掛けておいた罠にガッチリとはまっていた。


「うぎゃあぁ!」


「あの、それ、私が仕掛けたトラバサミです…」


申し訳なさそうに言うキャロルだったが、見ていたガジとカレンはドン引きだった。


「えげつねえな…俺、アイツが罠作ってんのよく見てなかったけど、ツルが足に引っかかるとかだと思ってたわ…」


「あたしも、落とし穴とかかなって思ってた…」


「えぇ!? だ、だって罠っていったらこういうのかなって…」


なんとも言えない雰囲気になっている三人。

と、ここでジルが追いついてくる。


「うわ、何これ。…とりあえず状況はわかんないけどさ、ラクにしてあげたほうがいいんじゃないかな」


気絶するほどのダメージでもなく、まだ戦闘不能と判断されてない男をかわいそうな目で見たジル。


「それもそうね…でもあたし、トドメは遠慮するわ…」


「俺も…」


カレンとガジの二人の目線は一人の少女に注がれている。

二人の目線を受けたキャロルはびくりと身体を震わせる。


「わ、私ですか!?」


「だって、ねぇ…」


「ああ…」


「でも、私の魔法…」


「うああぁ!!」


キャロルが魔法を使うと、男の身体に黒いモヤがかかり、男の叫び声が一層大きくなる。


「防御系と精神系しか使えないんですぅ!!」


「「それを早く言え(言いなさい)!!」」


三人を黙って見ていたジルは、急にみんな仲良くなったなあと思いつつ、このままじゃ彼がかわいそうだと言うことで、速やかに彼の胴に針を突き刺した。


「うぐっ……」


「ごめん、なんかかわいそうだったから先にやっちゃった」


「「いや(いえ)、助かった(ありがとう)」」


「す、すみません…」


四人での初戦闘。

ガジとカレンはそれなりに戦えることがわかったが、実はキャロルが天然でやばいやつだということがわかった。


『残り七班です』


最後の男が光に包まれて消えたところでアナウンスが流れた。


「この試験、アナウンスなんてあったのね。残りどのくらいになったら終わるのかしら?」


「さあな。とりあえず最後まで残ればいいんだろ?」


「そうなんだけどさ…え、なに、君ら急に仲良くなってない?」


出会ってすぐはあんなに噛みつきそうな勢いだったのに。


「なってねえ(ない)!!」


「息ピッタリじゃないか」


「そんなことねぇ(ないわ)!」


「おい、一緒に口開くんじゃねえ!」


「こっちのセリフよ!」


「ああ!?」


「なによ!」


「け、喧嘩はよくないですよぉ…」


喧嘩が始まりそうなところ悪いけど、戦ってるのがバレてる可能性がある以上早めにここを動かないといけない。


「はいはい、喧嘩はあとにして。早く移動しよう。今の戦闘で他の人たちが向かってくる可能性あるからね」


ジルの言葉に一理あると理解したガジとカレンは睨み合いながらも一時休戦としたようだ。

その傍らでキャロルは何事も起こらなかったからか、胸を撫で下ろしていた。


「そろそろ暗くなってくる。火を使うにしても周りからバレない場所がいいな…」


「あ、あの…」


「どうしたのキャロル?」


「さっき逃げてる途中に洞窟みたいなの、見つけたんですけど…」


「ナイスだ!」


びくりとキャロルが震えるが気にしない。

まわりに乾いている木はたくさんあるので火をおこすのに苦労はしないだろう。


「まずはそこにいこう。じゃあキャロル、案内して」


「わかりました…!」


キャロルは胸の前で握り拳を掲げて気合十分といった様子。急にテンション上がってるみたいだけど、大丈夫か…?


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