第9話


俺らはガジに索敵を任せつつ、食料確保と拠点決めをしていたのだが…。

ガジはいい。気配に集中して周りに気を配っているのでそれ以外を今求めるのは酷だろう。

キャロラインは意外と薬草の種類を知っていて、切り傷に効くものだったり、うち身に効くものだったりを集めてくれている。

問題はカレンだ。色々持ってきてくれるのは助かるが…。


「ジライアス、これは?」


「それは毒キノコ」


目に毒な色合いをした食べたらファンキーになりそうなキノコを持ってくる。


「これはどう?」


「それは毒草」


明らかに食べたら不味そうな臭いと、切り取った口から謎の粘液が滴り落ちている草。


「…これは?」


「…それは毒虫。っていうか素手で触んな!」


そもそも触るのも遠慮したいというかなんとも形容し難いうねうねと動く虫。


慌ててカレンの手から虫を払い落とす。手が当たった瞬間に解毒しておくのも忘れない。

これくらいだったらバレることなくできるから俺ってばすごい。


手を払われたカレンはすっかり落ち込んでしまったようだ。


「あんなに美味しそうに見えているキノコや山菜は全部毒入りだし、虫も触ったし…はあ…」


「いや、虫は自業自得だけどな。どうする、ガジと役割変わるか?」


「…いいえ。今後こんな事態に陥らないとも思わないから。ジライアス、よかったらどれが食べれてどれが食べれないか教えてくれない?」


「それくらいお安い御用さ」


そう言って俺は近くの木の根付近に生えている茶色の地味なキノコを取る。


「これがエスタケ。よく鍋料理とかに使われるけど、そのまま焼いても美味い」


「そうなのね、えっと、隣のこっちのは?」


同じ木の根に生えているキノコを指差すカレン。おめでとう、それは完全に毒キノコだ。


「よく見て。エスタケは丸い傘みたいだけど、こいつはひらべったいだろ? こいつはディグタケっていって、エスタケとよく間違われるんだ。一口で幻覚が見えるやばいキノコ」


「…あまり違いがわからないけど。他に見分け方ないの?」


「うーん…傘の裏側とかかな? エスタケはひだがたくさん付いているけど、ディグタケはツルツルなんだ、ほら」


実際にディグタケを取ってエスタケと比べて見せる。

俺の説明に納得がいったのか、しきりに頷くカレン。


「本当だわ。ディグタケはつるつるしてる…けど、こんなにわかりやすかったらみんな間違えないわよね?」


「慣れていたら見ればわかるんだけど…不慣れな人は上からの見た目だけで判断するから裏まで見ないんだよ。あ、あそこにエエノキがある」


「えっ、あれって食べられるの!?」


俺が見つけたのは何かの拍子に倒れて朽ちそうになっている木にくっついて生えている白くて細いキノコ。


「食べれるよ? 食感もいい感じだし、調味料があればなあ…」


「ジライアス、あなた貴族なのよね…?」


「まあ、ウチは他の貴族とは違うからね。節約しないとうまくやっていけないんだよ」


これは半分は嘘だ。本来ならこんな知識なんて無くたってハウンド家には金は溢れんばかりにあるし、豊かな生活は送れるだろう。

けれど、ハウンド家の誇りがそれを許しはしないのだ。


国を裏から守る自分たちが必要以上に裕福になることは、国を蝕んでいるのと同義だと初代は言ったらしい。

俺は興味ないけれど、その思想は現代にまで受け継がれている。だから溢れた金は孤児院や国に返して、国の未来に還元しているわけ。


「貴族にも色々あるのね…」


「貴族と言えばだけど、キャロラインの家もそうじゃない? シュタインベルトっていったら確か…今の軍の総帥と同じだったはずだけど」


名前はなんだったかな。確か…グレン・シュタインベルトだ。王国始まって以来の槍の名手だとか。本当かどうかは定かではないけど、強いのは確かだ。


「ひゃい!? えと…おじい様が、そうです…」


「そうなの? なんだ、二人とも貴族様なのね…ひょっとして敬語とか使ったほうがいいのかしら?」


「貴族の端っこの子爵家にそんなもんは必要ないよ。それと、ジライアスって言いにくいだろ? ジルって呼んでくれ、みんなそう呼んでるんだ」


「わ、私も…敬語で話されるような者では…」


「じゃあ、ジルって呼ぶわね。キャロラインは…キャロルでいい? あたしのことはカレンでいいから」


「は、はい…わかりました…カレン、さん」


「本当はさんもいらないんだけど…まあこれから仲良くなっていきましょう?」


女性陣が友好を深めているのを見て、俺ら男性陣も必要じゃないかなあと先ほどから口を開かないガジを見ると、彼は俺らには目もくれず真剣に働いてくれていた。すまんね。


「おい、ジル」


「んお?」


「敵だ」


ガジの一言でみんなに緊張が走る。というか、さっきの聞いてはいたんだね。


「方向は?」


「この先真っ直ぐ。五〇〇メートルってところか。人数までは分からねえが、確かにいる」


森の中で視界が悪いのによく見つけるなあ。ちなみに人数は四人、俺らと同じでまとまって行動してるよ?


「どうすんだ、ジル」


「そうだなあ…」


戦ってもいいけれど、気付かれていない今なら逃げるのも手だ。

というのも、センコウの説明に引っかかるところがある。


彼は敗北条件は話していたが、制限時間については一言も触れていないのだ。

この試験が全滅するまでだとしたら、相当消耗していくだろう。


けれど、一回も戦わないでいると全員の戦力もお互いよくわからない。となると…。


「ガジ、カレン、キャロル。戦闘準備だ」


「おう」


「わかったわ」


「は、はいぃ…」


「せっかく気付かれてないんだ。ラクに勝ちに行こう」


「「「?」」」


戦闘準備はする。ただしこの森の中、いつまで続くか分からない戦いに精神をすり減らすのも確か。なので一番消耗の少ない方法でやらせてもらおうか。

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