第8話


一触即発の空気。仕方がない、俺が和やかにしてあげようじゃないか。グループだしね、ギスギスしているよりは和気藹々としていた方がいい。


「ま、まあ落ち着いて。とりあえず自己紹介しておこうよ。俺はジライアス・ハウンド。一応貴族だけど…子爵家だしほぼ平民みたいなもんかな。戦闘スタイルとしては、オールラウンダー…っていうのが近いのかな。一応近距離も遠距離もできるよ。えっと、じゃあ次、君の名前は?」


男の方はいつ噛み付いてくるかわかったもんじゃないので最後にするとして、喧嘩腰の女の子の方に話しかけてみる。


女の子は自分を落ち着かせるようにため息をつくと、話し始めた。


「あたしはカレン・フォスター。魔法が得意だからどちらかというと遠距離が得意ね。それで、あなたの名前は?」


カレンはひたすら謝り倒して今にも目が回って倒れてしまうんじゃないかと心配になってきた女の子に話しかける。

先ほどの男と軽い口喧嘩をしていた時とは違って、あまり緊張させないように柔らかい口調になっている。


そういうのできるんだったらどうして最初からそうしないの?


「あ、わ、私は、キャロライン・シュタインベルト…です。わ、私も魔法が得意です!すみません!」


「いいのよ、魔法が得意なのね? じゃあ私と一緒に後方支援かしら? よろしくね」


「は、はい! すみません! よろしくです!」


話始めたと思ったら謝っちゃうしこりゃ駄目かもしれないな。ガッチガチに緊張してしまっている。


ここで三人まで自己紹介が終わった。次は一匹狼っぽい男なんだが…ちゃんと自己紹介してくれるかな?


「それで、あんたの名前は?」


おおう、チャレンジャーだな。耳を傾けてすらいない相手に向かって真正面からいくなんて自殺行為だぞ?


「ああ?」


何を怒っているのかわからないが彼は相当不機嫌らしい。それかもしや…彼ではなく…? いや! そんなはずがない! だって彼、すごい鍛えられて引き締まった身体しているし声だって低いし…。


「名前よ、名前。自己紹介くらい言われなくてもしたらどう?」


「うるせえな」


「名前がないの? じゃああたしが付けてあげるけど? じゃああんたの名前は名前がないからナナちゃんね。その無駄な筋肉からして近距離戦大好きの脳筋なんでしょ? あたしたちの護衛よろしくね」


「馬鹿にしてんのか!!」


「馬鹿になんてしてないわよ。足を引っ張るなって言うからにはあたしだって足を引っ張るわけにはいかないわ。そのための協力。あんたそんなこともわからないの? 本当に馬鹿なのね」


おうおう。それくらいにしておいて! 彼は真っ赤になって今にも噴火しそうよ!


「このクソアマ…! …チッ。ガジ・フェンネル。俺はナナだなんてクソだせえ名前じゃねえよ、馬鹿が」


「あら、ちゃんと話せるんじゃない。だったら最初からそうしたらどう?」


おいやめろカレン! 燃えたぎるマグマに燃料を投下しているようなもんだぞ!


「てめえいい加減にしろよ!!」


噴火した!! 逃げろ!


『みなさん、これから第二次試験の説明を始めさせていただきます』


と、ふざけていると先ほどのセンコウという男の声が響いた。


今更だけどここってどこだ? 右を見ても木。左を見ても木。めちゃくちゃ森なんだけど…。


『みなさんは今、学校側が用意した野外を想定した演習場にいます。

今からみなさんには、自分のグループ以外の人とゲリラ戦を行ってもらいます。


敗北の条件は、全員が気絶するかリーダーが倒れること。リーダーは決まったらこちらに報告してください。その場でわかるようにしていただければこちらで把握できます。


なお、この演習場には結界が張ってあるため、演習場内で一定のダメージを受けると医務室へ転送されるようになっています。なので、敵を見つけたら殺す気でやってかまいません。


それでは、今から第二次試験を始めさせていただきます。それと、アドバイスになりますが、食料は現地調達が基本なので早く動いたほうがいいですよ。


それでは、始めてください』


始めてください。ってなんだそりゃ! 本当にせかせかした監視役だな。


「まずはリーダーを決めよう。この中で一番生存率の高そうな奴なんだけど…この状態じゃわからないか」


「あら、少なくともそこの短気なお馬鹿さんじゃないことは確かよ?」


「てめえはいちいち喧嘩売らねえと喋れねえのかよ…!」


「あわわわ…」


それにしてもカオスだな。他の班もこんな感じなんだろうか。そうであって欲しい。


「あたしは、ジライアスかキャロラインがやればいいと思うわ。あたしがリーダーだと早くに倒されそうだもの。それにこの馬鹿も除外ね」


「なんだ? すぐリタイアしますってか?」


落ち着いた様子で言うカレンをこれ幸いと言わんばかりにニヤついて馬鹿にしにかかるガジ。


「いいえ? あたしの魔法は目立つからよ。目立つ方が狙われやすいに決まっているわ」


「チッ、そうかよ。一応言っておくが、俺もリーダーはやめておくぜ。俺も目立つし、近距離ってこともあるから時間稼ぎか捨て駒にしかならねえだろう」


「あら、それくらいの頭はあるのね?」


「…足を引っ張らねえようにしただけだ。それに、俺よりそこのよく分からねえ気配のてめえがリーダーやった方が一番勝てる気がするんだよ」


「…確かに、あなたの気配ってなんか変よね」


ガジとカレンの二人がジルの方を見る。


「俺? 別に普通だと思うけどなあ。それより、キャロラインはどう? もしやりたいって言うなら譲るけど…」


「い、いえ!! 私はそういうのは…」


二人で言い争ったと思ったら急に俺を推したり不思議だ。二人とも落ち着いたからか、この短時間で慣れたからか、意外とクレバーになっている。

キャロラインは変わらずガチガチのままだが。


「それじゃあ俺がリーダーってことで…まずは食料確保か。索敵はガジ、俺はその保険と二人と一緒に食べ物を探しながら拠点に使えそうな場所を探す…ってことでいい?」


「ええ、異論ないわ」


「わかった」


「わ、わかりました」


なんだこのチーム。意外と言うこと聞くぞ? これなら余裕かもしれないなあ。


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