第7話


誰に知られることなくカッコつけてみたはいいものの、まずは大学校の試験を突破しないことにはダサいことこの上ない。


「それでは次の百人、入りなさい」


並んでいて気づいたけど、どうやら百人単位で大学校の中の教室に割り振られていくらしい。

そして中に入ったら一斉に試験を始めるというわけではなく、入った順に開始していくシステムのようだ。


何故それがわかったのかというと、俺たちのグループとすれ違うように絶望の顔をした若者達がぞろぞろと外に向かっているからだ。

ぶつぶつと何かを呟いている奴もいれば、ただ放心状態の奴もいる。よっぽど駄目だったのか?


「君たちはこの教室だ。入りなさい」


案内役なのか試験官なのかは知らないけど、若い男の人の言うことに従う。


教室の中にはずらりと机と椅子が並んでおり、机の上には事前に紙とペンが置かれていた。なんだ、ペンって支給されるのかよ。持ってきて損したなあ。


「みなさん席についてください。場所はどこでも結構です。前だから評価が上がるだとか、後ろだから評価が下がるだとか、そういうことはありません。とにかく素早く効率的にお願いします」


なんだこの男の人。嫌々仕事してるのかなあ…あ、よく見たら目に隈がある。寝てないのかな。

教室に入った百人が席についたところで、男の人が教壇に立った。


「私は今回の試験の監視役を務めさせていただく、センコウと申します。さて、みなさんのお手元には紙とペンが置かれていると思います。私が合図をしましたら、紙を裏返して問題を解き始めてください。、解答してくださいね。何か質問のある方は? 試験中の私語や質問は受け付けませんので、ここでお願いします」


センコウがそう言って受験生たちを見渡すも、誰の手も挙がらなかったので彼はそのまま頷いた。


まあ問題に答えるだけだしな。わからないもんはわからないし、解けるやつだけ解いていこう。

駄目だったら母さんの教え方が駄目だったということにしよう。…あの母が解けないことがあるのかという疑問は置いておく。


「それでは、試験を開始いたします。制限時間は十分です」


十分だって!? どうすんだよこれで馬鹿みたいに問題数があったら!

受験生には最初っから解かせる気はないってか?


馬鹿にしやがって、と思い紙をひっくり返すと、そこにはたった一つの問題文が。


『あなたの得意なことはなんですか? なお、解答は問題が分からないようにすること』


幼年学校の受験か!!! 馬鹿にしてんのか!


こちとら子供じゃねえんだからそれくらい書けるっての! 馬鹿にしてんのか!

周りで少しざわついた雰囲気を感じるがそんなことはどうだっていい!


俺は叫びだしたい気持ちを抑えて、『実戦』とだけ書いた。

だってそうだろ? 得意なことを聞かれてるだけだし…はっ、まさか得意なことが多い方が上手くいくパターンか!? ありえないわけじゃないな…。


とりあえずもう少し書き足しておこう。

えっと、『掃除に洗濯、料理もできます。あと、知り合いが多いのでもし欲しい物があれば紹介もできます。』こんなもんか?

いかんな。得意なことと外れてしまったかもしれない。最後のは消しておくか。


「てめえふざけてんのか!!」


うお、びっくりした。なんだ? 確かにこんな質問変だとは思うけど、そんな叫ぶほどのことじゃないだろ。さては短気だな?


「私語は慎むように。質問に答えることもありません。次は退出していただきますよ」


ガタイのいい男の叫び声に動じることなく静かに見つめるセンコウ。そうだよね、試験の監視役だもんね。そりゃあ見てるだけだわ。


「問題文が書いてないだなんてそんな馬鹿なことあるか!」


「…そうよ! 私だって何も書いてないわ! そちらのミスなんじゃないかしら!」


「俺だってそうだ!」


「私も!」


あれ? みんな書いてないの? ひょっとして印刷ミスみたいな? ちょっと良くないよそういうの…と思いバレないようにチラリと目をやるも…いや、書いてあるじゃん。『あなたの得意なことはなんですか?』。


「…はあ、だからこんな試験は無駄だって言ったのに。とりあえずそこの騒いでる方達、失格です」


センコウがやれやれと呟くと、彼の手に付いている指輪がきらりと光った瞬間、騒いでいた人たちが消えた。


なるほど? 行きのときに出会ったよくわからない人たちはそれか。

だいたい三分の二くらいの人が消えたんだけど。やばくない?


「十分経ちました。それでは、端の方から解答をお願いします」


「は…え、えっと…」


「答えられないのですか?」


「すみません…」


「失格です」


再び指輪がきらり。

あの指輪いいなあ。俺も作ろうかな。転移魔法の応用だろう。予め設定しておいた地点に任意で移動させる。難しそうだけどやる価値はあるだろう。


「では次」


「はい! 薬草をこねたり…あ、えっと…錬金術ができます!」


「そうですか、合格です。あなたはここで待機してください。では次」


「私は…格闘…です」


「合格。次」


……


「では最後」


こんな問答が続き、最後になってようやく俺の番。おかしいよね、俺、前のほうに座ってるのに綺麗にスルーされるんだもの。


「実戦。掃除に洗濯、料理もできます。あと、知り合いが多いので欲しいものがあれば紹介もできます」


「…いいでしょう。合格です」


なにかすごい言いたげな顔をされたが、一応合格は貰えたようだ。


「さて、みなさんお気づきの通り、今回の試験は魔力を見ることができるかどうかを重視しています。いかに知識に恵まれている、戦うことができると自負していてもこれができなければ話になりません。


それと、次の試験ではグループになって行動するのでその班分けも兼ねています。それでは、班を発表しますので分けられ次第移動していただきます。自己紹介などは移動先でしてください。


まずは一班…リック・トラード。ジェイ・ジェイ。ミオン・ウェルチ。オーグ・シウバ」


センコウが呼ぶと、おそらくその人物が順に消えていった。すごいな、これも指輪の力か。本格的にあれが誰が作ったのか気になってきたぞ……お?


考え事をしていると、急に視界に映る景色が変わった。どうやらぼーっとしてたら飛ばされたらしいな。さっき一班とか言ってたから…これは二班か?


周りを見ると俺以外に人が三人。

どうやら四人で一つの班になってるっぽいな。


男が一人、女が二人…。


「おい、てめえら。いいか、俺の足だけは引っ張るんじゃねえぞ」


ちょっと待って? 協調性は?


「あんたこそ、あたしの足を引っ張るんじゃないわよ」


うん、なんで喧嘩腰になるのかな?


「すみません! すみません!」


大丈夫、君は悪くない。だから落ち着こう? 君の持ってる杖が俺の目の前をかすめてるからさ。


一触即発の雰囲気。こんなんでやっていけるのか?


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