第4話
「ありがとうフェイ、お陰で助かったよ。自分の足じゃここまで早く辿り着けなかった」
『気にしないで。あなたが新しい一歩を踏み出すための手伝いができたのだからこれほど嬉しいことはないわ。これを聞いたら他の子たちもきっと喜ぶわね』
王都より少し離れた人目のつかない所で降ろしてもらい、フェイとの別れの挨拶をする。
フェニックスが現れたとなったら王都でも大騒ぎになるからそういうところは目立たないようにしないとね。
「あんまり広めないでくれよ? いきなり押し掛けられたんじゃたまったもんじゃないからさ」
『あら、みんなあなたのことが大切だから動くのよ? ワタシもそう。…さて、そろそろ時間ね。ジル、また何かあったら呼んでね』
「わかってるよ、俺だってみんなのことが大切さ。本当にありがとうフェイ!」
フェイはまるで笑うように目を細めると連れてきた時と同じようにふわりと浮き上がり飛び去っていった。
それを少し見送ってから、ジルは王都に向かって歩き出した。
♢
大陸の五大国の一つであるジオール王国の王都と言うだけあって、王都は空でも飛ばないと全てを見渡すことができないくらいに大きい。
外周を回るだけで何日かかるか想像もできない。
門は外周部の東西南北に一つずつ設けられており、王都の中央部はまた城壁に囲まれている。中央部には王宮があり、一握りの人のみが出入りを許されているというわけだ。
フェイに降ろしてもらったところから少し歩くと、南の門に繋がる大通りに出た。かなりの早朝ということもあって人の行き来は少ないが、商人や旅人など色々な人が歩いていた。
「流石王都ってことか…ってこれも別に珍しい景色じゃないか。早目に行って大学校の前で待ってよう」
前を行き交う人の波にならい、門の前まで流れていくことにした。こういうことは逆らわず流れに任せたほうがいいんだ。
順調に列がはけていき、ジルの番になった。
門番の人と知り合いということもなく、普通に身分証を提示して通行を許可してもらう。朝からお仕事お疲れ様です。
門をくぐると、そこは別世界だった!…ということもなく、元気に行き交う人たち、王都と呼ぶにふさわしい建物などが迎えてくれた。
「とりあえず大学校の前に腹ごしらえか?」
夜中フェイの背中に乗って飛んでいたせいか、結構お腹がすいている。寝ていないことはさして問題はないけどお腹がすいているのは大問題だ。
ジルの父、ヴォルスとの訓練では徹夜で森でサバイバルだなんてさして珍しくないことだった。その中で一番の問題だったのは、食べられるものが何かわからないから実際に食べて体で覚えなければならないということ。
安全に食事ができるというだけでとんでもなくありがたいことだ。
「王都でご飯って言ったらあそこだよな〜」
早速ご飯を食べようと知り合いの店を訪ねようとしたところで、ふと後ろの門番の声が耳に入ってくる。ざわついてるな?
「身分証は持っていないのか! 身分証のないものの通行は禁止されている! 身分証でなければ、その他の身分を証明できるものは持っていないのか!」
「あ、えっと…持って…あれ、お、落としちゃった…?」
慌てて荷物を探る少女の顔色は悪く、ごそごそと身分証を探しているものの状況は芳しくないらしい。
「…申し訳ないが、それでは通行を許可することはできない」
「ま、待ってください! 本当に持って…もってるんです…」
実に職務に忠実な門番さんだ。仕事をさぼっている俺からしたら眩しすぎて直視できないよ。
それはそれとして、周囲をざわつかせている身分不明の少女だ。
明らかに遠くから頑張ってやって来たと思われる風貌。顔立ちは整っているものの、土埃と身分証紛失の泣きそうな顔で台無しになっている。
仕方がない。人助けも大事だということで。もしこれでこの少女が他国のスパイだとしても問題ないだろう。その時は俺が処理すればいいだけだ。
「あの、門番さん」
「はい、なんでしょうか!」
すたすたと近づいた俺は門番さんに声をかける。先ほど確認してもらったので俺が一応貴族であることは知ってもらっているはずだ。
少女の方は泣きそうな顔…いや、軽く泣きながら俺を見ている。ちょっと、鼻水出てますよ。
「あー、全然知り合いじゃないけど、俺がそこの女の子の身分保証するから、通してあげてくれないかな?」
「いえ、その…知り合いじゃないけどと申されますと…受け入れられないというか…」
しまった。正直に言いすぎた。
実に職務に忠実な門番さんはやはり受け入れてくれないか。
「んー、じゃあ知り合いだから見逃してくれないかな?」
「き、規則がありますので。それに、先ほど知り合いではないと知ってしまった以上はお通しすることは叶いません」
む。この門番さん、できるな。こういう兵士は好みだけど…仕方がない。裏技を使わせてもらおう。あ、賄賂じゃないよ?
「…じゃあ、これで」
俺は耳にかかっていた髪をどかして、ピアスを見せる。このピアスは俺の身分を王族が保証しているという証だ。もちろん保証しているのはアイシャだけど、たまには使ってあげた方があいつも喜ぶだろ。
ピアスを見た門番さんは驚き姿勢を正した。いや、君もともとしっかりしてたよ?上に口添えしといてあげよう。職務に忠実で何よりです。俺も敬礼しておこうかな。…やめとくか。
「失礼しました! お通りください!」
「…え……あ、はい…」
門番さんは少女を通すと、俺に礼をして再び職務に励み始めた。引くべきところは引いて、押すべきところは押す…この門番さん、本当にできるな?
「そこの少女、ついてきて」
「あっ…!」
返事は聞かない。こういう時は返事を聞いてると無駄に時間がかかるからね。
少女がついてきているのを確認して、俺は当初の目的である店に向かった。
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