第2話「足掻いた」

思い出した記憶は無様だ。


* * *


その日は麗奈と一緒に遊んでいた。

「うちに来ない?」と誘われ、淡い期待を抱きながら家に行った。6畳間の部屋に男女が二人、そういうことを思うのは自然だろう。


「ねぇ、一緒に死なない?」


そんな中、麗奈は淡々と物騒なことを口にした。

急に声のトーンが変わって動揺した。


切羽詰まってるのは声からして分かったし、なるべく刺激しないように、と口に出た言葉は「なんで?」という投げかけだった。その言葉に堰を切ったように、「このまま生きてても意味ないよ。死のう」と麗奈は言った。


「何が合ったのか分からないけど、俺は死にたくない」


それからは必死だった。

生きようと必死だった。


感情的になった麗奈に、その場にあったカッターを持って襲われ、必死に抵抗して揉み合いになり、気付けば麗奈が刺されていた。一歩間違えれば俺が刺されてたかもしれないし、こうなったのは偶然だ。


これは正当防衛だ、と自分に言い聞かせて、手を伸ばして俺を手繰り寄せようとする麗奈を拒絶した。


すぐに救急車を呼べば助かるだろうか?ただ、俺が犯罪者になるかもしれない、そう思うと怖くて何も出来なかった。


悪いタイミングと言うのは重なるらしく、部活帰りらしい、麗奈の双子の弟の優斗が帰って来て見られてしまった。この状況を見られれば、間違いなく俺が麗奈を刺した犯人だ。


違う!これは事故で!!

そんな言い訳にしか聞こえない言葉を垂れ流したが、「煩い黙れ」と凄まれた。


優斗は麗奈の様子を確認する。


「…で、何か言い訳ある?」

「ちがっ…あいつが勝手に……!一緒に死のうって言われて、それで……」

「見放したんだ。麗奈可哀想」


無感情そうに優斗は言った。


「救急車…呼んで……そうすれば間に合うかも…!」

「もう間に合わないよ、ねぇ、どう責任取るの??」


優斗に攻め寄られる。何も答えられなかった。


「…それが答えなの?人一人殺した自覚とかない訳?黙ってれば許してもらえるとでも思った?とりあえず、おやすみ」

「えっ……」


優斗は部活帰りだ、そして優斗の部活は野球部。

バッドで頭を殴られた。それだけは分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る