ゾンビ・テラピー

@01haru

第1話

 80億だった人類が今さらどのくらい残っているか、そしてそれを数えることに意味があるのか。いや、「やつら」が食べられる食材の残量をわかるはずだから意味はあるかもしれない。「やつら」って(笑)、どこかのゾンビ映画の字幕でしか読まなかった文章を私が括弧まで使いながら書くことになるとは、死んだ人類は私にこれを話せる世界をつくるため犠牲してくれたかも。実はこれ昨日、コンビニで出会った生存者たちに使った冗談だけど、彼らは笑ってくれなかった。熱い悪口とこの世のすべてを込めた軽蔑はしてくれたけど。

 昨日のことで、「空気を読め」Yから𠮟られたけど。そんなダサいな人生話は、自分以外の人がいる時するなと言われた。彼女も彼女なりに、話したいものが多いはずだ。幸せを感じるのが死者によって、殺人のように扱われるようになった時代であるためい、いろいろ我慢している。

 そこで、このノートを残すことにした。俺、Kと同行者であるYのダサい人生話を人々に伝えるために。これを読むあなたはこれを読むと泣くかもしれない。起こるかもしれない。ノートを焼き尽くすかもしれない。も大丈夫、理解する。あなたから大切な誰かを奪ったはずの、毎日極限の恐怖に追い込んでいるはずのこの「人災」を讃美する者たちの物語だから。


 自分は運がいい人だと一生考えてきた。家は裕福とはいえないが、親はコツのいい人だったので、少し働いて平均以上を稼げる人たちだった。おかげで、高校に入る前までは、1年の2っか月くらいは家を空けて、一緒に日本国内外に、旅に出ることが多かった。自分はあんまり外にでるのは好きじゃない性格だけど、旅行先でしか、食べられない料理を食べるのは好きだった。

 同級生はもちろん多分、都市に住んでいるほとんどの大人が、見たことも聞いたこともない奇妙な食材をかなり食べてきた。当時の私からも、「私のような人生を住む人は多分、世界にあんまないだろう」と自分は運がいいと自覚していた。

 高校に入ってからも、平均よりは楽な人生であった。私に潜んでいた親の「コツのいいDNA」発火したのように、私は一所懸命に勉強しなくても成績は一定水準以上は保てる学生になった。けして、頭が良い方ではなかったが、どの部分は試験にでるかでないかを予測したら大抵の場合、俺の予想通に試験問題が出題された。

 最小限に勉強し、残り時間にはやりたいことをやる辛いことも、悲しいことも、激しいこともない生活。受験後に志望した自分の成績で入れる大学よりはるかにレベルが高い私立大学も、新設した学部の新入生を増やすため、もとの入学ハドルを一時的に下げた大学だったので、容易く合格した。

 そもそも、今さら思うことだけど、もし私が高校3年生の受験性だったとき、周りの同級生くらい勉強したらこん小細工を使わずに、上位の国立大学も入学できたと確信するが、それは時間が戻っても不可能なことだと自覚はしている。俺には底に顔から倒れた経験がない。

 努力しなくても大抵のことは手に入った。だから努力の方法を知らなかった。ポケットに入った手を少しだけ伸ばすと、誰もが憧れる一流の人生が手に入れたはずだが、私のポケットは暖かすぎた。手が傷なしに、ただれるくらい。

 何かに夢中する理由も方法も知らずに、私は死んでいく。精神的に。先から容易い人生だったといったが、それはいつまで大学入試まで。大学に入ってからは徐々に崩れていくことになった。親の交通事故、変態殺人犯との遭遇、恋人との運命的な別れなどなんかダイナミックな事件を期待していたら、すまない。俺を死に導いたのは、俺自身。

 欠席をし過ぎた。1時間距離の通学という生活に適応できなかった。サークルから脱会された。10分で終わる活動報告書をかけなくて。友人づくりに失敗した気に入った人に話をかけるという冒険が面倒だったから。就活?履歴書の作成を提出締切が過ぎるまで完成できなかった。一流の人生はともかく、一般人の人生も過ごすことができなかった。親によって精神科の相談も受けた。医者という人間は「意思と努力さえすれば...」だといったが、だからそれをどうするのよ。

 恵まれた環境と良質の身体と頭の持ち主の無抵抗な餓死。誰も共感できない贅沢な死に方だ。そもそも誰かに救いを求めるのが、失礼なことだ。

 そして2年前、私は救われた。最初に目撃したのは、母が父の腕を噛んだこと。それが50代夫婦の激烈なスキンシップではないことは分かった。それから、ずっと逃げてきた。多分2年以上生きてきたあなたならわかる内容だと思う。

 缶詰め一つで必死を尽くしたり、やっと出会ったと思った良い生存者がくそのようなカルト教団だったり、「やつら」によって同行者の内臓が引き裂かれることを直観したり、この世がアメリカバイソンのようにじわじわと終末に進んでいく…いや、このくらい書いたら、俺が何を言いたいかは、分かってくれるだと思う。

 皆が平等に経験した苦労、絶望、死別、殺人。それが俺を救ってくれた。誤解はしないでほしい。俺は死体や殺人で快感を感じる変態じゃない。俺も悲しさ、絶望感を毎日心臓から感じている。

 しかし、同時に俺だって体と心を動いて生活できるという感じるたび、その多少の不変さは問題にならないのも事実だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゾンビ・テラピー @01haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ