第22話

「──佐久間君だけ......なの。無理......かな?」

ベッドに腰をおろしたミズキ先輩が声を震わせ、解りきっている質問を訊いてきた。

「......光景が。いや、はっきりと焼き付いてて......カタがついていたとしても、繰り返すなんてとてもじゃないけど、もたない......」

俺は椅子に座りながらフローリングに視線を落とし、返答した。

「でも......っ、佐久間君に助けられてっこうして生きていられてる。佐久間君が手を伸ばしてくれていなかったら現在いまはないまま死んでた......とおも、う。だか、らぁ......」

「守りきれない......かも、しれない。先輩に同じような、ことが降りかかったときに......考えたくない、けど、もしそうなったら──じさ──」

「心配かけないように生きるからっっ!佐久間君にそんな選択を選ばせないようにっっ!の後を追うようなことはさせたくないっっ──わた、しを......選ん、で、よぅ......佐久間、くぅんっっ」

彼女の涙がぼろぼろとベッドのシーツに落ちて、黒く滲んでいく。


トラウマを抱えているからこそ苦しみを理解できる。理解できるからこそ......ということがある。


そう簡単に、容易に解けないからこそ一生トラウマに縛られ生きていかざるをえない。

彼女だって理解した上で──その上で、選択を迫った。


死んでもなお、呪縛が解けることがそうそうない。


過去やみを抱えたまま一歩を踏み出せない。彼女のように──完全とは言わないまでも、癒えることはない過去トラウマなのだから。


悲痛に泣き叫ぶ彼女の姿は──過去あのときと重なり、が言えずに時間が過ぎ去っていくだけだった。

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