第19話

シャトルは大きく山なりを描いて飛んできた。なんなくラケットで打ち返し、コートの奥に飛ばすも絆も打ち返す。

4回目の打ち返しの直後から弾道がはやくなっていく。、コートの前に出ているときにシャトルが低く早いスピードで飛んできた。咄嗟のことで反応ができなかった。ドリブンクリアを繰り出してくる絆。

絆のやつ、本気マジじゃん。絆の鋭い目つきが俺を見てくる。

「早くしてよ。まだまだするの、兄貴っ」

驚きのあまり、身体が動けずにいると、バドミントンを続けようと急かしてくる。

サービスの細かいことは気にせず、俺がサービスをする。

またも最初のうちは両者とも返しやすいところを狙うが、さきに俺が早いスピードでシャトルを打つと、負けじと絆も打ち返せないところを狙ってくる。粘りを見せ、コートの後方にいた俺は、ネット際に落ちてきたシャトルをロブで乗りきるも、打ち返されてラケットにシャトルが触れもせず、落ちる。

絆は、余裕の表情を見せる。フットワークが俺より軽くて、追いつけない。

人並みにできると思っていたバドミントンでこれほど力の差を見せつけられると、やる気が削がれる。

「疲れたから休憩していいか、絆?」

額から流れる汗を服の袖で拭いながら聞くと、不満なようでバドミントンを続けようと促してくる。

「だめっ、兄貴。10分もやってないじゃん。上手くなりたいのっ!」

「褒められるだろ。手も足もでないぞ、俺は」

「佐久間も絆さんも落ち着いて。軽く食べる──」

「行ってくる。俺が」

拓海の言葉を遮り、コートを出ていく。

「逃げないでよ、兄貴っ」

「拓海、付き合ってあげて」

俺は、追いかけてくる絆を拓海に押し付けて、体育館の外に出る。

照りつけるひざしに目を細める。たい焼き店で、三つ購入して、コンビニでスポーツドリンク三本とてきとうに弁当を買って、体育館に向かう。


30分後に到着し、バドミントンのコートまでかけ足で向かう。


「兄貴のどこが良くて付き合ってるの?」

「絆さんがわかってるでしょ、佐久間の良いところ。そこに惹かれて」

「わっわかんないしっ、そんなのっ」

「わかりやすいね、絆さん」

ラリーをしながら、楽しそうに会話を交わしていた。

「待たせた。疲れただろ、休憩挟んでからバドミントンやってもいいぞ」

「ああ。絆さんには勝てないよ、佐久間」

「今からやろう、兄貴」

絆と拓海がラリーをやめて、近づいてくる。

「休憩がさきだって。たい焼きが冷めてもいいのか、絆?」

「それは嫌だ」

シールでとめてある小さな紙袋を絆に渡す。

「冷めてる......たい焼き」

テンションが下がったような低い声の絆。

一口たい焼きをかじり、小さな悲鳴をあげる。

「あんこじゃん。食べられないこと知ってるでしょ!兄貴っ」

「あんこか、それ。確認して食べろよ」

食べかけのたい焼きを絆から渡され、食べる俺。

拓海が控えめに笑う。



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