第12話

数日が経ち、金曜日。

昨日までミズキ先輩は休んでいた。

今日、勇気を振り絞り、学校に来ているミズキ先輩。

5限目の中盤に差し掛かっていた。そのとき、ポケットの中のスマホがふるえた。ミズキ先輩からだった。嫌な予感がした。

「先生、ちょっとトイレ行ってきます!」

教師に断りを入れ、教室を飛び出す俺。

教師の言葉を無視して、廊下を走る。

スマホから、ミズキ先輩の助けを求める悲痛な声が流れる。

返事をする前に切れた。

やばい、ミズキ先輩が。間に合え。

授業中にとは思わなかった。教室ではないだろう。となると倉庫かも。


俺の目に倉庫がうつった。倉庫の扉が開いていて、ミズキ先輩が腹に手を当てている。彼女の手を足で踏みつけていた男子がいた。

俺は倉庫まで走り、止めにはいった。

「あんた達、ミズキ先輩から離れろ!」

先輩を踏みつけている男子が荒い口調で言う。

「お前、誰だよ。関係ないやつは引っ込んでろよ。邪魔すんな」

踏みつけていた方の足で彼女の横腹を蹴る。

彼女は痛さに顔が歪んでいた。

見ていられない。

俺は彼を突いて、彼女から遠ざける。

「何だてめえ。やんのか」

彼に胸ぐらを掴まれる。力は強かったが、彼女が経験したことよりは大したことない。

「聞いたよ、あんたらのことを。よくも女子に酷いことできるよな。胸は痛まないのか、痛むわけないよね。彼女に手をあげてるんだから。彼女の立場にたって考えろよ、どれだけ苦しいか」

「ハハッ、立場?考える必要なんかねぇよ、知ったこっちゃねぇ」

吐き捨て、笑い出す、三人の男子達。

聞いてるだけで、吐きそうだ。

胸ぐらを掴む男子が反対の手で腹を殴ろうとした寸前に、掌で防ぐ俺。

「あはは。同じようにやられると思ったのか?少し鍛えてるんだよ、あることがあって。もし俺を殴り、消そうとしたら、あんたらは一生楽に暮らしていけないけどぉ、良いのかな。働くとこもなくて、生きていくの辛くなるけど、覚悟があるなら。背負えるのなら、良いよ」

小さな笑みを浮かべながら、低いトーンで恐怖を与えるような声で事実を突きつけると、途端に彼らは血の気がひいた顔になり、俺の胸ぐらを離し倉庫から走り去っていった。

終わってみると、俺は彼らより酷い顔だったかもしれない。先程まで。

俺は、ミズキ先輩の身体を起こし、謝る。

「ごめん、先輩。間に合わなくて、また前と同じような...」

涙が流れる。

「あや、ま......らなく、てぇいぃ、よぉ。ありぃ...がと、ぅ」

小さくつまりつまり、痛みをたえ想いを伝えてくれる。

彼女の瞼がとじる。

俺は、彼女を抱え、保健室に向かう。

教師に彼女の腹が殴られていることを伝え、病院に連れていくように頼んだ。すぐに彼女を病院に連れていった。


俺は、5限目が終わるまで、保健室の椅子に腰かけていた。涙が流れ続けた。俺の泣き声と、床に涙が落ちる音が保健室に響く。


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