第7話
昼休み。
俺は、拓海にミズキ先輩が居そうな場所を聞いた。
昼食を食べ終え、拓海の予想する場所に急ぐ。
教室にはいないと思う、息苦しい場に留まることはしないよ。一人になれるのは、と拓海が教えてくれた。
俺は、下駄箱で靴に履き替え校舎を出て、ミズキ先輩を探す。
すぐに彼女を見つけられた。座りこむ彼女に駆け寄り、声をかける。
彼女の全身は濡れていた。髪やブレザーから水が滴る。シャツも濡れて、身体にはりついていた。
彼女のまわりのアスファルトは黒く濡れていて、バケツが倒れていた。
「大丈夫...ではないですよね。よかったらこれで、拭いてください。まだ使っていないので。風邪をひくので、保健室に行きましょう。先輩」
俺は、ハンカチを渡そうとするが彼女は受け取らず、俯いていた。
三分ぐらい経ったときにようやく、ハンカチを受け取った。彼女は涙を拭き、顔も拭いてから、顔をあげて、か細い声で助けを求めた。
「助け......て。お願い......します」
彼女は泣きながら、俺に抱きつく。彼女の背中を優しくさする。嗚咽がまじっている。
あの時の彼女─町居さんを思い出してしまう。
「必ず、助けます。先輩の味方です。何かあれば、先輩のもとにすぐ駆けつけます。約束します。今は保健室に行って、休みましょう。先輩」
泣き止んで何とか立ち上がった先輩のブレザーを脱がせ、俺のブレザーを掛けて、彼女の腕を自分の肩に回し、保健室に向かう。その間、俺達は一言も口にしなかった。俺自身話すことは無理だった。
足どりは重かったが何とか保健室に着いて、扉を開ける。
室内から驚きの声があがる。
「彼女、どうしたの?さあ、早く入って着替えないと。風邪をひくわ」
若い女性の品川先生が用意してくれた椅子に先輩を座らせる。
品川先生はミズキ先輩にタオルと体操服を渡す。
俺は、後ろを向いて、先輩に促す。
「後ろを向いているので、着替えてください。嫌なら、外に出ます」
「大丈夫、外に出なくても。君は見ないと思うから」
そして、衣擦れの音がして、音がしなくなり小さく声をかけてきた。
「もういいよ。こっちを見ても」
俺は振り返り、品川先生に先輩をここで休ませてほしいと頼む。先輩はベッドに横になる。
俺は横になっている先輩に訊ねる。
「嫌なことを聞きますが、これは聞かないと助けることが出来ないのでさきに謝ります。ごめんなさい。誰にやられましたか、あといつから始まりましたか。詳しく言わなくてもいいので」
俺は、先輩に頭をさげる。
「この高校に入学して、間もなくして始まった。悪口なんていつも、突き飛ばされたり、蹴られたり、水をかけられた。冬のときは地獄で寒くて、身体がふるえ、たえられなかった。あげくに服を─」
「もういい......ですっ。そこまで辛い経験を...本当にすみません。ミズキ先輩っ。最後に...首謀者を教えてください」
涙が流れて、ふるえた声になりながら頭をさげる俺。
「何で、私の名前を。名前、言いたく...ない。......身長が高く、目つきが鋭くて、身体が大きい...男子」
なんとか、先輩からいじめの首謀者の特徴を聞けた。
「本当に嫌なことを聞いてすみません。早く駆けつけられるように、先輩の連絡先を教えてください。先輩の名前は友達の拓海に聞いたんです。拓海は男バスで身長が高く、優しい顔つきの奴です」
「ああ。あの男の子か...連絡先を教える前に、君の名前を」
先輩は、拓海に心当たりがあるようだ。
「佐久間春仁です」
俺達は連絡先を交換した。
俺は、廊下に出る前に先輩に、
「保健室で寝ていたら、帰りは一緒に帰りましょう。心配なので。必ず、ミズキ先輩を救います」
と言う。
扉が閉まる前にミズキ先輩が一言。
「ありがとう、佐久間君。お願い」
俺は教室に向かった。
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