第6話

俺は、机に突っ伏していた。

前の方から挨拶をされた。聞き慣れた優しい声だった。

「おはよー、佐久間。元気ないな、どうしたの」

俺は頭を上げて、声の主に挨拶を返す。

「ああ、拓海。おはよう。妹とちょっとね」

「絆さんとちょっとって。何があったか知らないけど、頑張れよ」

いつもより俺の声が低いことに気づいたようで、気になったようだが追及はしてこなかった。俺は拓海のこういう優しいところに惹かれ、友達になった。

拓海は俺の前の席に座る。シャツの袖を捲りあげていて、青一色のネクタイをゆるめていた。ブレザーは羽織っていなかった。

汗はタオルで拭いたようだが、小さな汗が身体に残っていた。

「朝練だったのか、拓海。週のはじめなのにお疲れ様」

「まあね、ありがとう。佐久間。まいったよ」

笑顔だった拓海の顔から笑顔が消える。

「まいったとは?」

「いやさー。部活をやってると、女バスの二年の先輩が部活仲間に酷いことを言われてたり、ボールをその先輩にぶつけたりしてるのをみて、胸が苦しくなるんだよ。ミズキ先輩なんだけど」

いじめられてるのはミズキ先輩らしい。漢字はわからない。聞いたことがない先輩だ。先輩は知らない。

「そうなんだ。拓海は見てるだけなのか、お前らしくない」

どこにでもいじめはあるな。俺も胸が苦しくなる。

「助けたいよ。助けたいけど、いじめてる連中はたちが悪いんだよ。無理なんだよ」

声が小さくなっていく、拓海。

古場拓海は俺より身長が高く、部活はバスケで先輩よりは上手くないが一年の中では上手いらしい。彼女持ちらしい。彼女は先輩と聞いている。

「そうなのか、拓海の優しさで少しでも支えてやれよ。そのミズキ先輩を」

俺は、拓海の肩を叩く。

「ああ、できたらいいな」

横から声をかけられた。黒髪のショートカットの女の子で可愛くて胸が大きい、冴島さんだった。

「春仁(はると)君、いいかな。昨日の数学でわからないとこがあって」

冴島さんは俺の机に教科書を広げる。

「ああ。いいよ、冴島さん。どこかな、わからないのは」

「また後で。佐久間」

気をつかって、自分の席に戻る拓海。

俺は、拓海に手を振る。





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