👻夕日とキミと僕
僕がキミに出会ったのは、夕暮れ時で悲しいくらいに美しい夕日を眺めていた時だった。
図書館からの帰り道、寂しげなキミを見つけだんだ。
薄い靄がキミの周りにかかっていて、その中でキミは生きている。
何度か声を掛けようかと思ったけれど僕の声は聞こえない、聞こえないはずだった。
なのにキミは答えてくれた。
「辛かったんだよね」
そう言った僕に答えてくれたんだ。
「うん、辛くていつも死にたいって思ってる」
そう言いながら小さなため息をついた。
聞こえないふりをするけど、その思いは僕の心の中にふわりと沁みてきた。
赤く染まる空を見上げながらキミに声を掛けた。
「夕日はいつも悲しくなるよね、でも僕は好きなんだ」
二人並んで空を見上げた。
「あなたは、生きるの辛かった?」
不意にキミは僕に聞いてきて、答えるのには深呼吸しないといけなかった。
「そう、だけど生きていたかったって思うんだ、もっとたくさん色んなことをしたかったし、恋もね」
公園の入り口にある、車止めに軽く腰掛けながらキミは悲しそうに笑った。
「私はね病気なの、きっと死ぬまで治らない病気、だから生きて行くのが時々辛くなる」
僕もそうだった。
毎日毎日死にたいって思ってた。
「僕も同じだったよ、死ぬ権利が欲しいって思ってたんだ」
キミの瞳から、ひとすじの涙が流れてきて、それをそっと拭う姿を見ると、僕も泣きたくなった。
僕はポケットからハンカチを出そうと思ったけど、出来なかった。
「誰に聞いても、死んだらそこで終わり、生きなきゃダメだって言われるだけ。それが辛くて……………来週手術をするんだって難しい手術でそのまま死んでしまうかもしれないし、植物人間になるかもしれないって言われてる」キミは辛そうにそう話した。
「それは辛いね、でも数パーセントでも望みがあるなら希望を捨ててはいけない気がするんだ」
僕の方を向いたキミの瞳に僕の姿は映らないのが悲しくなってくる。
「あなたは、どんな風に生きたの」
普通に聞いてくる。
「そんなの普通だよ、遊んで勉強して恋をして笑ったり、悩んだりしながら生きてきた、病気だったけど、命がずっと続くって思ってた…………だけどそうじゃなかった、突然命は奪われたんだ」
キミの瞳からはたくさんの涙が溢れてきて僕は尚更悲しくなった。
「生きて欲しいんだ、死なないで!僕の分まで生きて」
キミがやっと笑ってくれたのはそれからもっとあとだった。
たくさん話をしたし、好きな音楽や僕が楽しみにしていた映画の結末やほんとにつまらないことも……
「幽霊にナンパされるなんて思わなかったな」なんて言うからキミと僕は笑い転げた。
「もう会えないけど、ちゃんと生きてね」最後に僕は言った。
「ありがと、頑張るね」
そう言って歩き始めたキミの上にはたくさんの星が煌めきはじめていて、雲からは綺麗な月が顔を出してその姿を優しく照らした。
~おしまい~
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