👻夏はやっぱりホラーでしょ!
あいる
👻霊感少女カスミ
「もう、いい加減どっか行ってくれへんかな」
夏期講習の帰り道にカスミは大きな声で叫んだ。
通りを歩いていた薄毛のサラリーマンが怪訝な顔でカスミを見ている。
見て見ぬふりをしてる人が多いこの世の中だ、当然なのだろう。
カスミの後ろから、トボトボとついて来ているのはもののけ、
生まれて物心が着く頃からカスミの目にはこの世のものではない存在が見える。
知らないおばあさんだったり、幼くして命を落とした子どもだったり、この世に思いを残したままの魂たちが、カスミの周りに集まってくる。
カスミだって最初は怖かったけれど、怖がったからといって離れてくれることもなく、仕方ないからそのままにしているのだ。
別に自分に害が及んだり、祟られることもないし、以前一度だけ霊媒師とやらのところに連れて行かれたことがある。
それは自分の意思ではなくて、カスミはおばあちゃんに無理矢理連れて行かれた。
その霊媒師は、まことしやかに「この子の周りに邪悪な魂が憑いている、除霊をしなければいけません」
と、高い印鑑を買うことを勧めてきた。
過去に死んだ女の霊が憑いている、それは悪霊でその子(カスミ)の命を奪おうとその時を狙っていると言う。
その頃カスミは小学5年生になったばかりだったけど、自分の周りにいつも誰かがいることは知っていた。
でもその頃憑いていたのは全て男性である。
そして今でも時々入れ替わりはするけど、決まって三人だった。
この霊媒師にはちゃんと見えていないのだというのはよく分かった、おばあちゃんを納得させるのはちょっと大変だったけれど、何とかその怪しい霊媒師から逃げることが出来た。
それ以来いつもカスミは1人のようで一人では無い。
現在、カスミに憑いているのは大学生の男子とアラフォーのサラリーマン、そして小5のやんちゃ坊主だった。
そしてさっきから、その中でもいちばん口うるさい大学生と喧嘩の真っ最中である。
「いい加減本気で勉強しないと僕みたいになりますよ、何度も言ってるじゃないですか」
この大学生は受験に失敗して、三流大学に通い始めた頃、交通事故で命を落としたと、初めてあった時に泣きついてきた男(幽霊)だった。
そしてイケメンであるにも関わらず残念なオタクっぽい性格の男子だった。
それにカスミは反論するのだ。
「キモい、その標準語やめてくれへん、ここ大阪なんやけど、気に入らへんのやったら、誰か他に憑けばいいやんか」
「カスミちゃんは僕がコミュ障だって知ってるでしょ、他の人のところに行くなんて滅相もない」
情けない、コミュ障の幽霊なんて恥ずかしくないのかとカスミは日頃から思っていた。
塾の授業の真っ最中にウトウトするカスミを何度も起こそうとこの大学生(幽霊)は冷たい手で頬を撫でたりしていた。
そんなもので起こされるほどカスミはやわではない。
「ほしたら、文句言わんといてや」
そういったけど、カスミは肩を落として初めて弱音を吐いた。
「そんなもんわかってる、でもな、
いくら頑張ってもぜんぜん偏差値は伸びひんし、模擬試験ではいっつもD判定やねん」
そうなのだ
希望する大学の判定はやっとDになった、それまではいつも圏外だったから少しはマシなのかもしれないけど。
今度は幽霊(大学生)がカスミのネガティブ発言に口を出してくる。
「ほら、言わないことではないでしょ」
もちろん幽霊だし、思っていることは全てお見通しだ。
カスミはその言葉にイラッとした。
「てか、あんたさぁ、名前なんやねん、生きてる時はなんて呼ばれててん?」
シュンとした大学生は小さな声で言った「◇*&#」
カスミはもう一度大きな声で聞く。
「聞こえへんねん、ハッキリと言うてや」
ボソッと大学生は答える。
「康蔵……やすぞう」
「や、やすぞう?
そんな名前やったら確かに死にたくなるな~あっもう、死んでるけどな~」
腹を抱えて笑うカスミをみていた康蔵はいつか呪ってやろうと心に決めていた。断じて違う、自分は自殺した訳ではないしと反論しようとした時にカスミは追い討ちをかけるように言った。
「じゃ、あだ名つけたるわ、何がいいかな、ヤッシーでいいかな」
「や……ヤッシー?うーんでもAAAのボーカルみたいでいいかも……それでお願いします」
鬼のような顔をしていた大学生(ヤッシー)の顔がニヤけてる。
「わかった、ヤッシーやな」
いつの間にか仲直りしたのだと、サラリーマンと小学生はホッと胸を撫で下ろしながら思った。
背後霊も結構辛いのである。
👻おしまい~👻
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