第13話 姉の正体


バタァッ!!


ニマを抱えたロックスが宿屋の扉を勢いよく開け、目標の部屋へと駆ける。



受付の従業員が驚く中、それに構わない様子でロックスは階段を駆け上がる。


「王都軍一番隊隊長のロックスだ!!強盗犯の潜伏先の可能性が高い為、急遽調査しに来た!!」



駆けながらそれだけを一方的に受付の従業員に伝える。



鍵に書いてあった数字が3階の部屋を示すため、ロックスは3階まで一気に駆け上がった。



「!!?」



3階に到着した瞬間、そこに広がる光景より先に、ロックス、ニマ、ナルに濃い、鉄臭い匂いが嗅覚を強く刺激する。



「よおぉ、遅かったなぁ最強さん」



その男は廊下に広がる血だまりの中心に立っていた。


その血溜まりの上には人間の、腕、頭、胴、脚がバラバラになって落ちている。


その中の人間の一人に先程の盗賊だと思われる輩の服装、顔をロックスは確認できた。




「・・・これ、やったの君?」



あまりに惨い惨状にロックスはその血溜まりに目を合わせないようにしながら問いかける。


そして、その後ろで、ロックスから降ろされたニマが凄惨な現場を目の当たりにし嘔吐する。


「おっ・・・えぇ・・・」

ナルが心配そうに、その小さな体でニマの背中に乗ってスリスリと背中を擦る。



「ああぁ!!そうだよぉ!こんなに綺麗な完成系を闇オークションにかけようとしてたからさぁ!!頭にきて殺ったちゃったよ!!


まあ!モノの価値も分からないゴミは死んで当然だよねぇ!!」


その男は男にしては少し小さな身体で高らかに話し続けた。



そしてその男の横には木になっているロックスの奥さんが置いてあり、ぽんぽん、と奥さんの肩を叩く。



「街中で偶然見かけてさぁ、いやぁラッキーだったよ、これであの人は大喜びだぁ」


ニタニタと奇妙な笑顔を浮かべる男。


それに対しロックスは警戒心を強める。


「君・・・何者だ?」


「よくぞ聞いてくれましたぁ、俺は還り樹ノ会のもんで、キザンっていう。


最近うちも有名になってきたようでよ


最強さんも耳にしたことあるんじゃないかぁ?」



「ああ、目的不明、老若男女問わず虐殺したり金品強奪したりで、


イマイチ目的が掴めないから、金に困ったただのイカれた集団かと思ってたが」



「還り樹ノ会・・・?」


聞き覚えがある名前に嘔吐していたニマは口を拭い反応する。



「おう?嬢ちゃんも知ってんのかぁ、うちもいよいよ有名になったようで嬉しいこった」



「おい、この嬢ちゃんはその還り樹ノ会ってとこに自分の集落滅ぼされてんだ。


なんか知ってることがあったら素直に吐け。」



「!?おいおい、それってマロイが『鍵』を連れ帰るの失敗したとこじゃねえか?


と、するともしかしてそこの嬢ちゃん、名前ニマって言うんじゃねえか?」



「!!そうですけど・・・なんで私をそんなに狙ってるんですか・・・」



「なんでかって?嬢ちゃんも気付いてるんじゃないの?


自身の魔獣魔導師にしては異質なな魔力にさぁ、


詳しいことは教えられねぇけど、


まあ、あとはあの人が個人的にあんたと一緒に行動したいのもあるんだろうな」



「あの人・・・?」


マロイも言っていた『あの方』という存在と同一人物であることをニマは察する。


自分に執着する正体不明の人物にニマは嫌悪感を抱いていた。



「ラマ・プマフェリード。



あんたの姉だよ。」



「なっ・・・ぁ・・・!!?」



目を見開くニマ。


なんで



なんでなんで



謎、謎過ぎる、いやそれ以上に理解したくない感情がニマの心に溢れた。


そしてロックスも驚く。

「まじか・・・、じゃあ木の変質魔法も・・・」



「あー?そこまで知ってるんだぁ、


なら、あんまり噂が広まる前にさっさとあんた殺してニマさん連れていった方が良さそうだぁ。」



「なんでッ!!」


「んん?」


涙を流しながら眉間にシワを寄せニマは叫ぶ。



「なんの為にそんなことしてるんですか!!!

お姉ちゃんは!!!!」



「あー・・・なんも話してないんだなラマ様は。


“魔王“になる為だよ。



あらゆる魔力を司り、この世のあらゆる生物の頂きに立つためさぁ」



「は・・・?」


ニマは理解を完全に放棄した。


今まで信じていた姉の像が、ニマの中で崩壊していく。




「魔王・・・?そんなものおとぎ話の中でしか聞いたことないじゃぞゲ??


そんなことも分からないくらい馬鹿なのじゃゲ??」



今まで黙っていたナルが口を開く。



「へぇ!魔獣が喋るのかぁ!!さすがあの方の妹さん!!常軌を逸してるねぇ!!」



ニタニタと嬉しそうに笑うキザン。


それに対して不快そうな表情をしたロックスが口を開く。


「お前・・・もう黙っていいぞ、あとはお前をぶちのめしてから聞く。」



「へぇ・・・最強さんでも難しいと思うけどなあ???」



ロックス、キザン、両者とも腰に掛けていた刀に手を添える。







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魔獣魔導士の冒険譚〜姉が魔王を目指してるらしいので全力で止めようと思います〜 あさひ @asahi_0311

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