第10話 当たり前な異様さ
「3年前だ、僕と奥さんはある任務中に何者かに不意打ちのような形で攻撃を受けた。
木の変化魔法を使われたんだ。その後すぐそいつは逃げて行ったよ、当然追ったけどすぐ見失ってしまった。動機も分からないし、フードで顔を隠していたから素顔も分からなかった。」
ギリッと歯を食いしばり悔しそうな表情を浮かべるロックス。
「そんな・・・それじゃあ今奥さんはどうしてるんですか・・・?」
「・・・鉢に植えてあるよ」
「はい・・・?」
ポカンとするニマ。
そんなニマに立て続けにロックスは説明する。
「木の変化魔法をまともに受けてたみたいでね、魔法をかけられた瞬間、体が木になるのと同時にそのまま立ってた地面に根が張ったんだ。もう本物の木だよ。根っこと地面ごと掘り返して鉢に移動させて、毎日水をやってるよ。」
「・・・」
突然の次元が違う話にニマは思考が停止する。
人間が植物になり、それが今鉢に植えられ、水を与えられて生きている。
その異様さを当たり前に話すロックスにニマは少しの恐怖を覚えた。
「・・・引くよな?」
ニマが引いてるのを察したロックスが苦笑いしながら話し掛ける。
「い、いえ・・・」
「いや・・・この話を聞いた時、皆同じ顔をするんだ。そりゃそうだよな。
でもこれ以外方法がないんだ。色々試したが、普通の木の様に扱うことが1番良さそうなんだ・・・」
神妙な顔になるロックス。その目には哀しさと悔しさを宿している。
「・・・」
何も言えないニマ。異様さに驚き唖然としているのと同時に、今まで忘れていたある事を思い出しそうになる。
「すまない、本題に入ろう。あのジグって子の呪いについて何か知らないか・・・?行動に一緒にしてるならなにか知ってると思ったんだが・・・」
そう問いかけるロックス。
そして二万は思い出したその事柄を口にする。
「・・・私の姉、木の変質魔法の使い手なんです。」
「!?」
目を見開くロックス。
「でも、姉は集落を離れててもう何年もあってなくて何か知らないか両親を訪ねようと集落に戻ったらあんなことになってたんです・・・」
「な・・・!本当か・・・!?」
暗い表情だった先ほどとは一変して声色と共に表情が明るくなるロックス。
「どんな些細な事でもいい!そのお姉さんについて教えてくれ!この数年、木の変質魔法について調べようとしたが、稀すぎてまともな情報が無くてな・・・」
「・・・教えてください」
「・・・え?」
「お姉ちゃ・・・姉の情報を知って、姉を見つけたあと姉をどうするのか」
警戒するニマ。
姉のことで周りが見えなくなったジグを目の当たりにしたことがあるニマにとって、姉の存在はその希少さが故に、木の変質魔法で危害を加えた疑いは姉に集まりやすい。
素直に姉の情報を喋り、姉が特定され、何の罪もない姉が冤罪をかけられる事をニマは恐れていた。
おまけに相手は軍。大きな権力を持つ軍をニマは警戒した。
そしてその事にロックスは気付く。
落ち着いた声のトーンでニマを諭す。
「大丈夫だよ、確かに木の変質魔法の使い手は希少過ぎるが故に疑われる。
でも、何の証拠もなしに裁く訳にはいけない。これは当たり前の考えであり、この国の王子様が一番大切にしてる事だ。それを簡単に破れる程この国も僕達も汚れてないよ。」
「・・・」
「まあ、すぐに信用出来ないのも当たり前か。
大丈夫、すぐに教えろとは言わない。
今後の生活を考えるためにも君はしばらくこの国にいると思うから、もし教えてくれる気になったら教えてくれ」
「え・・・」
想定外の言葉にニマは驚く。
てっきり強引に聞き出されると思ったからだ。
「分かりました・・・」
その言葉に肖り、今は黙っておくことにしたニマ。
ニマにとって姉は大好きな人間のひとりだった。
その姉を危険に晒したくないし、そもそも木の変質魔法で危害を加えるような人ではないと信用しているからこそニマは警戒をそう簡単にとかなかった。
「よしっ!これで終わろう!
質問したいことはある程度終わったから!」
「ありがとうございました・・・」
「ニマちゃん、僕今日非番でさ、よかったらちょっと着いてこない?案内したいとこがあるんだ」
「え、分かりました・・・お供させてもらいます・・・」
「あっ!ごめん、罪悪感感じるから先に言っちゃうけど、正直これで距離縮めて信頼してもらおうって気持ちもあるんだ・・・でも親切したいって気持ちもあるんだ!嘘じゃないよ!」
「ええ・・・失礼ですけどそんな馬鹿正直な人初めて見ました・・・
大丈夫ですよ・・・親切にしてくれようとしてる人に嫌なこと思ったりしないので気にしないでください・・・」
「はは・・・よく言われるよ・・・
いい歳なんだからもうちょっと威厳のある言動とれって・・・
じゃあ行こうか、君の部屋の前で待ってるから、部屋に行って身支度してきてくれ。
あっ、君のその魔獣も一緒に来てくれて構わないからね」
「は、はい分かりました、ありがとうございます・・・」
こうしてニマに対する取り調べは終わり、ロックスとニマは街へと出向こうとした。
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