第9話 取調べ

ニマとナルの対話の後ニマはすぐ寝静まった。



時間はあっという間に過ぎ、すぐにカーテンの隙間から朝日が差し込むとニマはベッドからむくりと上体を起こす。


「ふぇあ〜〜」


間抜けのようなあくびをするニマ。朝日を迎えたことによる部屋の明るさの変化を感じとり自然に起きてしまったのだ。


しかしここ数日の疲労と負担は凄まじかったもので、久しぶりに整った環境で眠ったことで深い眠りにつき、良質な睡眠を取れたようである。




「目が覚めたようじゃなゲ。」


「わっ!!・・・そっか喋れるもんね・・・。」


「早く慣れることじゃなゲ。」


起床したニマは、洗面台へ行き髪を整える。


ここ数日髪を洗えてなかったことで髪質が最悪だったが、昨日のシャワーと石鹸により指がするり、と透る程の髪に仕上がっている。


ニマも一人の女性。自分の身なりが少し綺麗になったことに静かに心を踊らせる。


そうこうしてる内にニマがいる部屋に簡単な朝食が運ばれてくる。



サクサクのクロワッサンに、軽く焼き目が付いたベーコンが更に添えられている。


ナルが少しくれ、とニマに要求するのでニマはナルの口元に半分にちぎったクロワッサンを一口で平らげ満足気な表情をナルは浮かべる。



朝の寝ぼけたニマの脳には丁度よい目覚めのきっかけとなり、意識がより鮮明に覚醒していく。






コンコン



部屋の戸が鳴る。


朝食をちょうど食べ終えたニマはドアへ向かって返事をする。


「は、はい!お食事いただきました!」


「ぶっ、相当惨い現場から来たって聞いてたから心配してたが、その様子だと大丈夫そうだな」


ドアの向こうで男性が笑い声を響かせる。


「開けても大丈夫かい?嬢ちゃん。」


「ど、どうぞ!」

笑われたことが少し恥ずかしくなり、顔をほんのり赤くするニマ。



ガチャ



ドアを開ける男性。


銀髪の長髪を後ろで一つにまとめた、無精髭を生やした中年の男性がニマがいる部屋へ足を踏み入れる。身に纏う黒の衣服はフューが着ていた軍服と同じようなものだった。



その無精髭を触りながら男性はニマへ微笑みかける。



「初めましてお嬢ちゃん。ニマ、って言ったかな?

僕はロックスって言うものだ。今日君の話を聞かせてもらう者だ、よろしく。」


愛想の良さそう且つ柔らかい落ち着いた声のトーンにニマの緊張が緩む。



「よ、よろしくお願いします!」


「早速だけど話聞かせてもらう部屋に案内させてもらうよ。もう移動しても大丈夫?」


「だ、大丈夫です!」


「よかった」


ロックスとニマ、そしてニマの肩にナルが乗り取調室へ向かう。


取調室では石の壁に木製の机と椅子が二つ置かれてあり、先程までの客室とは違った、ひんやりとした冷たい雰囲気で満ちた空間になっていた。


「さ、中に入ってどうぞ。」


ロックスがニマに中に入るように促す。


「は、はい」


解けかけていた緊張がさらにニマに走る。


椅子にニマは腰をかけると、ロックスも腰をかける。



「・・・さて、最初に伝えときたいことがあるんだが。」


「は、はい」


ロックスの急な真剣な眼差しにニマの表情が強ばる。


「指名手配犯のマロイ、彼から話を聞いた上で君達に事実確認やらなんやらをしたかったんだが・・・」


ロックスの声のトーンが低くなり、どこか悲しみが含まれた声へと変わる。


「やつを乗せていた馬車が、本来の帰還ルートとは外れた場所で見つかったんだ。一緒に乗っていた戦闘員と、馬車を操縦する御者、馬、ほとんどが死んだ状態でね」


「!!」


「その中にマロイの姿は無かった。唯一、奇跡的に息があった戦闘員に話を聞くことが出来てね、急に少人数に奇襲されたと言う。しかもそいつら皆同じローブを羽織っていたらしくな。そいつらはマロイを奪い返しに来たって考えるのが妥当と俺は思った。


ニマちゃん、今の話を聞いてマロイと何があったのか、マロイについて知ってること、全て話してもらいたい。


あとニマちゃんともう一人のジグって言う子、君達はまだ100%シロと決まったわけじゃない。くれぐれも嘘付いたりなどの発言には気を付けるんだ。」




「そ、そうだったんですか・・・


分かりました、あの集落で何があったのかお話します・・・」



そしてニマはあの集落であった事を全て話した。

集団で集落を襲ったらしく、最後の見回りとしてマロイはあの場に残ったこと、そして自分を狙っていたこと、『還り樹ノ会』という団体名を名乗っていたこと。



ニマが全てを話終わった後ロックスは涙ぐむ。


「ーーこれが私が知ってる全てです。正直私もなんで自分が狙われたのかとか分からないことが多くて・・・って、えっ・・・?泣いて・・・ます・・・?」



「いや・・・気にしなくてグスッ・・・いいんだ・・・。

そうか・・・集落から追い出されて・・・戻ったら集落の仲間皆いなくて、両親も・・・そうか・・・グスッ



悪い・・・思い出したくないことを思い出させて・・・」



「いえ・・・いいんです・・・。私は私でちゃんと受け止めましたから・・・」



「グスッありがとうな・・・あともう一つ聞きたいことがあってな・・・」


「は、はい」


「あのジグって子、彼の右顔面の木の呪いについてだ。彼に話を聞こうにも疲れが余程溜まってたのか未だに起きなくてね・・・まあこれは僕個人の私情が入った質問でもあるんだが・・・」



「私情・・・ですか・・・?」


「ああ、実は・・・」



ロックスはさらに悲しそうな、寂しそうな表情で顔を歪ませる。





「僕の奥さんも木の呪いにかかって、今完全に木と化しているんだ。」






「え・・・?」

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