第6話 王国軍



「ガフンッ!!」


ジグの渾身の一撃により顎を砕かれたロープ君は地面へ轟音と共に倒れる。



ロープ君が倒れることによって宙に放り出されたマロイは勢いよく地面に叩きつけられる。

「がはッ!!」


地面に叩きつけられた衝撃によってもがき苦しむマロイ。


その様子を見ていたジグはマロイに歩み寄ろうとする。


「おい、俺達の勝ちだ、大人しく詳しく話せ・・・」


しかし


「あ・・・!?」

バタッ


その場にジグは膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れる。

「ジグさん!!」


倒れたジグを心配しながら急いで駆け寄るニマ。

「ジグさん!!大丈夫ですか!?」


「あぁ・・・ただ体が痺れて動けねえ・・・」


「もうポーションも無いしどうすれば・・・」


「いや、俺はいい。それより今のうちにあいつを拘束してくれ・・・」


「そ、そうですよね!分かりました・・・!」


ニマはジグの言葉を受けマロイの方に目を向ける。

しかしそこには先程までいなかったはずの犬のような魔獣がマロイを背中に乗せている。


「確かに私の負けです・・・。しかし、捕まる訳にはいかないので、なけなしの魔力で最低級の魔獣しか召喚できませんでしたが、この子に運んでもらって失礼します・・・」


「!?おい!まて!!」


「あの魔獣速い・・・!!」

追いかけるために駆け出そうとするニマだが、圧倒的な速度でニマとの距離を離す。


「はやい、追いつけない・・・!」

「ピュイッ・・・!」

ナルも追いかけようとするが当然その小さな体では追いつける訳もなく、距離は開く一方である。



ドタアッッ!!!


「あぐっ!?」

「キャウン!?」


勢いよく駆け出していたマロイと犬の魔獣は突如地面に転び、叩きつけられる。


転んだ犬の魔獣の下には赤い血溜まりがゆっくりと広がる。


そう、犬の魔獣は前足が切り落とされたように無くなっており、それによって転倒したことをニマは察した。



ーーそして、マロイと犬の魔獣の奥からは数人の人影が現れる。


「お前、指名手配犯の魔獣使いのマロイだな」


「な・・・!その軍服は・・・まさか・・・」


地面に這いつくばったまま言葉の主を見上げる。

その言葉の主は、全身ほぼ黒の軍服に身を包んだ赤毛と緑の瞳が印象的な青年だった。


「俺達はアリス王国軍の者だ。お前には国民の虐殺と怪しげな団体での活動の疑惑がある。そしてこの集落の惨状、取調室で詳しく話を聞かせてもらう。大人しく捕まれ。」


その青年の後ろにいた者達は手錠と縄を取りだし、マロイを拘束しようとする。


「ここまでですか・・・。分かりました。ここは大人しくしましょう。」

マロイはそう言うと目を閉じ、好きにしてくれと言わんばかりに手を差し出し手錠をかけられ縄に縛られる。前足を切断された犬の魔獣は光に包まれ消えていった。



その様子をニマとジグはポカン、と見つめていた。

余りの急展開に頭が追いついていない中ニマは必死に頭を回転させる。


「(アリス王国軍の人・・・ここからは相当遠いはずの都会なのに、なんで今ここに・・・?もしかして誰かが通報してくれた・・・?)」


「おいニマ・・・この状況どう説明するよ・・・」


「そう言われても・・・ありのまま話すしか・・・でもあのマロイって人が正直に話すなら、私たちの話も信憑性が増すかもですね・・・」


そう話してるジグとニマの元に赤髪の青年は近づく。


「なあ、おふたりさん。俺はアリス王国都市軍のフューって言う。見たとこ悪人には見えないが、ここで何が起こったのか詳しく話してもらわなきゃいけない。悪いが俺達と一緒にアリス王国に付いてきてもらっていいか?おとなしく従ってくれるなら手荒な真似はしない。」


フューと名乗る青年はマロイと話していた時とは打って変わって、少し申し訳なさそうな口調で物腰柔らかく話しかける。


マロイの話も知らなければならないニマにとって断る理由はなかった。


「はい・・・分かりました・・・。あと・・・!この人の手当もお願いします!!もうボロボロでこのままじゃ・・・」


「ニマ・・・お前・・・」

予想外のニマの発言にジグは驚く。


「ああ、勿論。そんな状態じゃまともに話せないだろうからな。あと、人の心配よりあんたも結構疲弊してる様だぞ、場所は確保するからあんたも休め、それから話を聞くよ。」


「え・・・?」

そう言われるとニマはその場へストン、と座った。

意識的ではない、体の力がまとめて抜けるような感覚に驚くニマ。


「あんたそのなり、魔法を扱うだろ。そして多分今そこのマロイと荒事になって結構大きな魔法使ったんじゃないか?外傷はなくても滲み出る魔力がずいぶん弱々しいぞ。」

「回復班。手当と応急処置を頼む。戦闘班はマロイを拘束して先に馬車で帰っててくれ。俺と回復班とこの2人はもう1つの馬車で後を追う。」


「「「「「了解しました!!」」」」」

統率の取れた班が各々自分の仕事をこなしだす。


マロイは身ぐるみを剥がれ、拘束され、戦闘班に連れられ集落の外へと連行される。


「あの・・・」


「ん?」


手当をしてもらうニマはフューへ質問を投げかける。


「フューさんは、そもそもなんでここに来たんですか?襲撃があったって、誰かが通報したのですか?」


「あー、いや、別で動いてる仲間、ってか上司が王国都市付近で怪しげな20人くらいだったかな。そんぐらい集団を見つけて、尋問したらここへの襲撃の情報が入ったんだ。そのおかげで後手後手になってしまったけど、マロイの確保、そしてあんたらを見つけれた。」


「20人!?その言い方だと1人で尋問したように聞こえますけど」


「ああ、1人だよ。あの人はアリス王国都市最強なんだ。20人くらい訳ないさ。」


「凄い人なんですね・・・。」


「ああ、王国都市にとっても、俺にとっても、『誇り』だよ、あの人は。」








◇◇◇◇◇◇◇◇


「くしゅんっ!誰か僕の噂してるな・・・」

1人の中年男性が銀髪の長髪を靡かせながら、くしゃみをする。


「てっ、てめえ!!余裕こいてんじゃねえぞ!!」

「やれ!!王国都市最強がなんだ!!この人数で勝てるわけねえ!!俺ら『還り樹ノ会』の相手じゃねー!!」



10人ほどの剣やハンマー、杖を持った集団に洞窟の中で囲まれる中年男性。


「はー・・・ここはハズレかな・・・せっかく手がかり見つけたと思ったのに、こんな雑魚ばっかりじゃ話になるやつも居そうにないな・・・」


「何言ってやがる・・・!このっ・・・!!」


ズバンッ!!!!


「「「なっ!!」」」


空気が裂ける音。その音とともにその集団が持っていた武器たちは一瞬で砕け散った。


「1度だけ聞くから嘘はつかないでね。」






「木の変質魔法の使い手は知ってるかい??」



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