第5話 決着の拳
シンーーーーー
静まり返る住宅街。
ニマとジグが隠れているであろうこの場所に辿り着いたマロイ。
「追いかけっこも終わりですよ。」
先程ジグとニマが入り込んだであろう民家へ目を向ける。
「・・・別の民家に渡ってるのかもしれないですし・・・一つ一つ虱潰しにするのも面倒ですね、やはり君を呼んでいてよかった。」
そう言い、ノンキ君から降りて先程召喚した魔獣に目を向ける。目を向けたられたその魔獣は成人男性の胴体ぐらいの大きさの漆黒に染る蛙だった。
「ニッキ君、敵さんを炙り出したいから、ここらの民家全部やっちゃって下さい。」
「ゲコッ」
ニッキ君と呼ばれた蛙の魔獣は大きく息を吸い込み体を膨らまれる。次の瞬間ーーーーー
「ゲコオオオオオオオオオオオオッ!!!」
ニッキ君の口から図太い火柱が放射され、辺り一体の民家を業火で包む。
「いつ見ても凄まじく美しい火力ですね・・・」
ゴオオオオオオッ
先程までの住宅街の景色は一瞬にして消え、そこには火の海が広がる。
「ゲコッゲッコ・・・」
「さすがに今ので魔力を使い果たしたようですね、ニッキ君ありがとうございます。よく働いてくれました、戻ってください。“召喚取消詠唱コールバイ”」
光とともにニッキ君は消える。
さてと、と一息をつき、マロイは業火に包まれる民家を見つめる。
「ノンキ君は東と北、カンキ君は南と西を見張ってください。どこからでてきますかね・・・」
バキャアッ!!!
「!?」
マロイの目の前に燃え盛る大きな木片が落ち、同時に木片が落ちたことによる砂埃が起こり、マロイの視界を奪う。
「ッ!!なるほどこれを投げつけて視界を奪ってその隙に襲撃するつもりですか・・・!しかしッ」
瞬間、マロイの目の前に拳が現れる。
ドガッ!!
鋭いスピードと共にマロイを仕留めようと突き出されるそれは、別の場所を見張ってたはずのカンキ君によって受け止められる。
「はあ!?なんでこいつ分かったんだ!?」
砂埃の目くらましで生じたはずの隙に飛び込んだジグ。マロイに目掛けた攻撃はあっさりいつの間にかマロイの元に移動してきたカンキ君に受け止められる。
「あんたなんで分かったんだよ・・・どこに目ん玉ついてんだ」
「君の視野が狭いだけさ、空を見てごらん。私は既に鳥型の魔獣を放っていて周囲をノンキ君同様、監視させてたんですよ。まだ放しちゃだめですよカンキ君。」
「!?」
カンキ君は受け止めたジグの拳を両腕でがっしりと掴み放さない。
「このっ・・・!」
ドスンッ!!
「ぐぁっ・・・!?」
腕を放そうと意識が集中したジグをいつの間にか近くまで寄ってきていたノンキ君が突進により吹っ飛ばした。
ぶっ飛ばされ、地面に転がるジグ。
「ゲホッゲホッ!!いちいち、小賢しいな・・・。炙り出す為に家まで焼きやがって、おかげですこし火傷しちまったよ。」
そういうジグの衣服には所々焦げボロボロになっていた。そしてジグの右顔面の包帯も焦げによって緩み、ほどけていく。
「それはそれは申し訳ございません。しかし大丈夫ですよ。すぐに殺してそんなこと気にならないようにしますから・・・」
ジグの包帯がほどけ、マロイの目にはジグの木に変化させられた呪われた右顔面が映る。
「あ、やべ、包帯が・・・見られたくねーのに・・・」
「君!!!!」
「!?」
突然のマロイの大声に驚くジグ。マロイは温厚そうだった表情から、驚愕した表情を見せる。
「君・・・それは『祝福』じゃないか・・・。もしかして君はフォロウニア一族じゃないか?」
「あ?そうだが・・・もしかしてこの顔面のことについて何か知ってるのか・・・??」
予期なくして訪れた、求めていた手がかりにジグは息を呑む。
「・・・君はもしかして生き残りなのかい・・・??木の変質魔法によってあの一族は壊滅したはずだ。」
「!?てめえ!やっぱ何か知ってやがるな!!話せ!!」
「そうか生き残りか・・・、ならその馬鹿力にも納得がいく。体内で生み出される魔力が体外へ漏れることがないフォロウニア一族の特性『内流ナイル』。これによって自身の魔力を外に漏らさず100%筋力強化の魔法に体内で変換することであの馬鹿力を生み出してる訳ですね・・・」
「そこまで知ってるなら話せ!!俺の故郷に何したのか!!」
「残念ながら教えることはできません、企業秘密ですので。そしてあなたはやはりここでどうあっても殺すしかないようです・・・。」
「クソっ!!絶対ぶっ飛ばして吐かせる!!」
眉間にしわをよせさらに殺気が篭もるジグ。
「私としてもどうしても負けれないのでね、本気を出させてもらいますよ。“召喚取消詠唱コールバイ“」
マロイはそういいノンキ君、カンキ君、鳥の魔獣全ての召喚を取り消した。
「は・・・??本気でやるならなんで消したんだ・・・?」
「焦りはいけませんよ、今からです。“全魔力統合召喚詠唱フルコールハロー“!!」
「!?」
光とともに現れたのは民家ひとつ分ほどの巨大な兎、その額には一本の図太い角が生えており、瞳は緋色に光っている。
その巨大さにジグは一瞬怯む。
「彼を殺してください。私の最強の使い魔ロープ君!」
しかし、ジグはその程度のことでは揺らがない。
故郷を壊滅させられた怒りは目の前の異常な光景や恐怖さえ消し去り、拳に力が篭める。
激情により脳内でアドレナリンと同時に分泌された大量の魔力は、ジグの一族の特性“内流ナイル“によって体外へ漏れださず、力を込める拳と腕に注がれる。
「そこどけデカブツっ!」
その状態で繰り出される拳はただの突きとは違う、魔力が込められた拳。ジグの一族ではこれのことをこう呼ぶ。
「魔拳!!!」
ボガッッ!!
とてつもない轟音が辺りに響き、ジグの魔拳はロープ君に直撃する。しかしーーーーー
「さすがの馬鹿力もロープ君には通用しませんか。」
「チッ!!」
舌打ちをして歯を食いしばるジグ。その様子をしてマロイは勝利を確信する。
「現状最大の切り札であろう彼の攻撃がロープ君にはほぼ無力なのが分かった。なら、持ち前のスピードで本体の私を攻撃しようと近づくでしょう。しかし・・・」
ロープ君は手を伸ばしマロイを捕まえると頭の上にマロイを置く。
「この高さまでの攻撃は届かないでしょう」
ロープ君の頭の上からマロイはジグを見下す。
「君の負けです。そろそろニマ様を渡してくれませんか。どこかに隠れて何を企んでいるのか分かりませんがそろそろ諦めてくれませんか。」
ジグは俯いたまま顔を上げない。それはそうだ、これ程までの巨大な敵、自分の技が通用しないことが明白になった今、誰でも戦意喪失するだろう。
「・・・仕方ないですね。このままあなたを踏み潰してゆっくりニマ様を探すとしますか。」
「ジグさん!!もう大丈夫です!!!」
「!?」
突然の甲高い女子の声に一瞬驚くマロイ。振り向き下を向くとそこには民家の物陰から出てきたであろうニマを見つける。
「ニマ様!!彼はもう戦えません、おとなしく私と来てくれませんか、手荒な真似はしたくないのです!」
しかしそんなマロイの声には耳を傾けず、ニマはある行動にでる。
「・・・ん?」
ニマの手に握られていたのはニマの身長より少し小さいぐらいの、棘のようなものが突き出ている歪な形で、白く宝石のようなものが装飾されている杖だった。
「いきますよジグさん!!」
ニマは杖を振りかざす。魔法を使う際に起こる特有の光がニマの杖から輝き出す。
「待ちくたびれたぞニマ・・・」
ジグはニマに呆れた表情で呟く。そして俯いてた顔を上げ再び殺気が篭もる。その表情は口角が少し上がっており、笑っているように見えた。
「なんだ・・・!何をする気です・・・!?ニマ様は一体どんな魔法を・・・!!」
ーーーーージグは先程隠れていた時のニマとの会話を思い出す。
『私、両親から杖を貰う約束をしてて、その前に追い出されちゃったから持ってなかったけど、さっきナルにお願いしてそれらしきものを取ってきてもらったんです!』
『なら、その杖で魔法を使えるってことだな・・・?』
『はい!本当はなくても使えないことは無いんです
があるとないとでは魔法の質に天と地の差があるんです。』
『今そういう細かい説明はいい。それで何の魔法を使えるんだ?』
『私は簡単に言えば、“強化魔法“を使うことができます。ジグさんのその身体能力をさらに強化させることができます!』
『まじか、なら早くかけてくれ、俺もうあんまり長く動けるほど体力がないんだ』
『それが・・・初めて使う杖、そしてナルとの契約による魔力の大幅な増加、そして元々強化魔法ってデリケートなことがあって、今からジグさんにかけても暴発してジグさんの肉体を壊してしまう可能性があるんです・・・。』
『は!?それじゃ使えないってことか・・・?』
『いえ!そうじゃないんです。そのことがあって、魔法の調整に時間がかかると思うんです。だからジグさんにその間時間稼ぎをお願いしたくて・・・。私常に持ち歩いてたポーションがあるので、これで体力は回復できます!』
『なるほどな・・・分かった。ありがたく使わせてもらう。じゃあ最後にひとつ聞かせてくれ』
『?』
『ニマ、あんたが狙われてる心当たりはあるか?』
『いえ・・・本当に分かりません・・・私もなんのことだか・・・』
『そうか・・・じゃあ、俺はあんたを信じていいんだな?』
『!・・・はい!!私もジグさんを信じてます!』
『ああ、じゃあ、そろそろ来るだろうから準備するか。ニマ、死ぬなよ』
『ジグさんこそ!!』
ーーーーーそして今、ニマの発動した強化魔法がジグに力を与える。
ジグにかつてない高揚感、限りなく研ぎ澄まされて冴えた脳内の感覚、今の自分ならなんでも出来る気がする全能感すら湧いてくる。
「ロープ君!!急いで踏みつぶして下さい!!!」
マロイの焦った声が響き、ロープ君はその巨大な足でジグを踏み潰そう足を上げーーーーー
ドシン!!!!!!
力強く踏み潰した。
かのように思えた。
マロイは手応えのなさに疑問を感じ、辺りを見渡す。
「こっちだよエセ紳士」
マロイは声がする方へ振り向く。
その目に映るのは一瞬にして高く飛び上がったであろうジグ。
ジグは拳と腕に魔力を貯める。先ほどの魔拳を打つ前には無かった熱く迸る感覚に強化魔法の効果を感じる。
相手を行動不能にする為に、その拳はロープ君の顎へめがけて、ジグ自身も腕の感覚を感じないほどの速度で放たれる。
まるでニマの魔法によって導かれるように放たれた拳は後にこう呼ばれることになる。
“魔導拳“
ゴシャアァァッ!!!!!
「何とっ!!??」
先程の魔拳ではビクともしなかったロープ君は、顎を砕かれ脳が揺さぶられると共に、地べたへ轟音と共に倒れる。
ロープ君の頭上に乗っていたマロイは宙へ投げ出された。
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