第4話 戦闘。そして追いかけっこ。


「行っておいで、ノンキ君」


マロイがそう言葉を発すると共に、ノンキ君大きな身体がジグに向かって突進していく。

それに対してジグは大股を開き、拳を構えて迎え撃とうと試みる。


「(思ったより傷が響く。あんま暴れたり、様子見出来る程の体力も残ってねえ・・・。それに比べて向こうの魔獣は大したダメージ無し。短時間で終わらせれるように的確に隙を付いて一撃一撃に全力込めてから・・・)」


そう考えるジグの目の前には突進してくるノンキ君がすぐそこに来ていた。ジグは拳を引き、全身の力を溜め込む。そして刹那ーーー


『バゴオォッ!!』

「グギャッッ!!」


ジグに向かって突進していたノンキ君。ジグを攻撃できる距離まであと一歩の所で轟音と共に吹き飛ぶ。


「おや・・・?」

自分の魔獣が吹き飛ばされたことに少々の驚きの表情を見せるマロイ。ノンキ君が吹き飛ばされたその奥にいたジグは、拳を突き出しこちらを睨んでいる。ジグの体勢からジグがノンキ君を吹き飛ばしたことを瞬時にマロイは理解した。しかしここでマロイの中に疑問が生じる。


「(おかしい、先程までの彼の攻撃ではマロイ君をその場に倒れこませることが限界だったはず。しかも突進中のマロイ君の重量を正面から吹っ飛ばした力・・・魔法を使った様子もない・・・)」


すると一瞬で距離を縮めたジグがマロイに襲いかかろうとする。

「(本体のこいつ叩けば魔獣も大人しくなるだろ・・・!)」

「君、なにかからくりがありそうだね・・・だけど」

『ドガッ』

「!?」

ジグが放ったマロイに目掛けた拳はマロイには届かず、熱い肉壁によって阻まれた。


「“召喚詠唱コールハロー”、カンキ君召喚完了。君みたいに大体の敵さんは本体の僕を片付けようとするからね、対策を練ってない分けないだろう?」


ジグの拳が到達した先はマロイの前に突如現れた虎のような大きさのノンキ君より、また一回り大きい兎のような魔獣。厚い毛皮がジグの打撃を吸収した。


不敵な笑みを浮かべるマロイ。


そして今の状況をジグは瞬時に理解する。

「(さっき吹き飛ばしたノンキ君と呼ばれてた魔獣に大ダメージを与えたけど、再起不能にはできていない。多分、すぐに起き上がってこっちに襲いかかってくる。そうなったら魔獣2体相手に本体のエセ紳士を狙うことになる。さっきよりもっと状況は厳しくなる・・・。仕方ないがここは・・・)」


ジグはとっさに後ろに下がり全速力で走り出す。

「おや?今更逃げる気かな?悪いけど情報を漏らしたくないんで君はここで確実に仕留めるよ」

マロイは召喚したカンキ君と今起き上がったノンキ君にジグを追いかけるように指示を送る。



「勝手に言ってろ」

そうボソッとジグは呟き走りを止める。

走りを止めた先にいるのは、まだ蹲って泣き崩れたままのニマ。

息を切らしながらニマの元に駆け寄り、ニマを拾い上げ肩に乗せて再び走り出す。


「へぁっ!?」


突然肩に抱え上げられたニマは困惑の声を漏らす。

「ジっ、ジグさん!?」

「一旦その辺に隠れる、ちょっとおとなしくしとけ」

ジグはそう言うと再び全速力で駆け出す。

「わっ!?」

突然の速度に再び声を漏らす。


ふとジグの表情を伺うニマ。その表情は顔中にシワを寄せ、歯を食いしばる表情。


痛みと体力の消耗から、かなりの疲労状態だと見て分かった。


そしてニマは疑問に感じた。なぜここまでしてくれるのだろう、と。自分が仇への手掛かりだから?そう考えると理屈としては成立するが、それだけではない『優しさ』をニマは感じとっていた。



ジグが駆け出した方角は民家が集合した住宅街だった。しばらく走ったあとジグは後方を確認する。視界に入るのは先ほどの二匹の魔獣がこちらに向かってきており、カンキ君と呼ばれていた方へマロイが騎乗していることも確認できた。

しかし距離はおよそ200メートルほど空いただろうか。そう感じたジグは咄嗟に近くの民家に入り込み、マロイの死角を考え、死角だろうと考えられる角度の窓から隣り合った民家へ渡り目に入った一番奥の部屋へ身を隠す。


これで30秒ほどは隠れることができる。そう考えたジグはニマの方に振り向き話を始める。


「おい、お前の身に起こったことがどれだけ辛いことかは理解できる。だがこのままだったら俺は殺されるしお前は訳わかんねえ連中に連れてかれる。それでよくないと思うなら。協力しろ。」

ジグは痛みに堪え、冷静に言葉を投げかける。

ニマはその様子を見て静かに頷く。



続いて目を擦り涙を拭き取りマロイへの勝機を話し出す。

「ジグさん。私はさっきまでただ泣いてた訳じゃないんです。マロイって人に気づかれないようにナルにある物を家から取ってきてもらってたんです。」

「ピュイッ!!」

ニマの肩の上から自慢げに鳴き声を上げるナル。


ジグは今まで必死だったから気付かなかったのかニマが持っているものに驚く。


「え、まじか、お前それって・・・」

「今の私はナルと契約して、それに加えて“これ”もあります。だから上手くいけばあの人も倒せるはずです・・・!!」








ジグがニマを抱えて駆け出した後すぐにマロイは追いかけようと魔獣に騎乗した。

「やっぱり逃げようとしてるじゃないですか・・・

カンキ君、ノンキ君!行きますよ!」


駆け出すカンキ君とノンキ君。魔獣、それも兎の型の魔獣であれば当然ながら人間の脚力をはるかに凌駕し、一瞬で追いつけてもおかしくない。


そう考えるマロイの考えを現実は軽々と裏切った。


「なっ!?」


追いつくどころか距離は見る見る開いていく一方。

人間では到底辿り着けない速度にマロイは驚きを隠せないでいた。


「さっきのノンキ君を吹っ飛ばした馬鹿力といい・・・何かの魔法か?いや魔法なら魔力を感じるはず・・・考えてみればあのジグという男に魔力自体ほぼ感じない・・・そんな人間はこれまで見た事ないが・・・」


マロイは物心着いた時から魔獣を操る魔力の使い方を感じ取ることができ、それによって今まで一般の魔法使いより遥かに強力な魔獣を操って葬ってきた。だからこそ、これまで体験したことない経験に戸惑いが生じ、若干の未知の危険を感じ取る。

しかし、マロイはある事に気付く。


「あの馬鹿力が常に使えたなら、ノンキ君を不意打ちした時なぜあの馬鹿力を使わなかった?私を狙った時も使って良かったはず。私を倒すのにあの馬鹿力を使う必要がないと判断したのか。


・・・だとすると彼の馬鹿力には何かの条件が揃わないと使えない可能性があるな。これは対策できるとして問題はニマ様だな」


ジグがニマを連れ去ったことで2人でなにかしらの戦略を立てれる時間が出来た。さらにそのニマにはマロイが注意する大きな要素が含まれていた。

「私はただの魔獣使い。ニマ様は魔獣導士。あの魔獣の人間の持ちえない量の魔力を接続して大きな魔法を使える。何の魔法を使えるか知らないことが辛いですが十分に注意する必要がありますね・・・」


そうこう呟いているうちに。ジグがニマを抱えたまま住宅街のうちの一軒に入っていく様子が見えた。


「追いかけっこもお終いですか・・・」

マロイは駆けるノンキ君に騎乗したまま、懐に隠していた小型の杖を取り出し召喚詠唱を始め、戦闘の準備を始める。


「なんにせよ、必ずニマ様は頂きますよ・・・あの方の為に・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る