第2話 真実を知る為に

「あんたマジで言ってんのか」


あぐらをかいていたジグは急に立ち上がった。


先程と声のトーンが違うジグに対してニマは驚いた表情でジグを見上げる。


「え、そ、そうですけど・・・あぐっ・・・」


ジグは険しい表情でニマの首を掴む。


突然の出来事にさらに困惑した様子になるニマ、しかしそんなことにはお構い無しにジグは質問を投げかける。


「あんたの姉ちゃん、今どこにいる・・・?なにをしてる?全てを教えろ、俺は今あんたの命をどうとでもできる。

返答次第ではあんたをここで終わらせることもできるんだ。本当のことを言えよ」


返答するも何も首を絞められていてはまともに声を出すことも難しい。しかしニマは残された力を振り絞り僅かに声を絞り出した。



「い・・・まは集落を出て・・・なにをしてるのか・・・わかりませ・・・ん・・・」


さらにジグの腕に力が入る。


「本当のことを言えと言ったが?」


「ほっほんとです・・・ほんとに知らない・・・っ!!」


ニマの頬に涙が伝う。苦しみと困惑の中、今日あった様々な出来事に対して歯痒い想いが溢れてくる。


なぜ自分がこんな目に遭うのか、こんな理不尽なことがあっていいのか、徐々に憎悪が膨れ上がる。


どうせ信じて貰えないまま殺されるならと、ニマは悪足掻きとしてその身から魔法を打ち出そうとする。しかし



「シャウゥッッ!!」

「あぐッ!?」


謎の鳴き声と乾いた音が鳴り響いた。


鳴き声の主はジグのフードの中から姿を現し、そのまま小さな翼でジグをはたいたように見えた。


ジグは怯みによってニマの首を掴んでいた腕を放し、正気を取り戻す。


ニマは身体が求めていた酸素をようやく取り入れることができ、盛大にむせ込みうずくまった。



「はっ・・・す、すまない、つい情が入りすぎた・・・謝って済むものじゃないが・・・」


自分が激情に流され普段の自分とは違う行動を取ってしまったことを自覚したジグは罪悪感と自責の念で押し潰されそうになる。


その様子を咳き込みながらニマは見上げる。


先程見せた、初対面の自分の為に怒りを現わにしたジグ、他人を思いやれる優しい一面を見た後では、今の行為は襲われた集落の仲間達への想いから来るものだと察しが付き、ニマに負の感情は芽生えなかった。



「いいんです・・・ジグさんの気持ちもわかるので・・・私の知ってることならなんでもお話しましょう・・・でもその前に」


ニマはジグのフードの中から突然飛び出したそれに目を向ける。


「その魔獣は・・・??」


ジグのフードの中から突然飛び出したそれは、トカゲの形をしており鉱石のような鱗で覆われた魔獣だった。



「あー・・・こいつか、俺も正直よく分かんなくてさ、ここに来る途中にたまたま会って付きまとうようになったんだ。何回振り払おうとしても付いて来るし、今は俺を正気に戻してくれたからいいけど正直付きまとわれて邪魔だけど、諦めて勝手に付きまとわせてやってる」



「へえ・・・野生の魔獣が魔獣導師や魔獣使い以外と大した接触なしで行動を共にしようとするなんて・・・珍しいですね・・・」



「??魔獣使いはきいたことあるが魔獣導師ってのはあんまり聞かないな、魔獣使いとなんの違いがあるんだ?」

「魔獣導師は魔法と魔獣使役を並行して使うことが出来るんです、分かりやすく言い換えるなら魔獣がメインで戦い、そのサポートをしながら戦うって感じでしょうか・・・実際私がそうなんですけど」



「え、アンタその魔獣導師ってやつなのか。じゃあこいつどうにか出来ないか、付きまとわれてるのどうにかしないと邪魔で仕方なくてよ・・・」



うんざりした表情でジグは切実にニマに依頼する。



「分かりました・・・!やってみます!」

快くニマは了承し、その魔獣との接触を図ろうとする。



「実は・・・私、集落を追い出されたのは独り立ちするための最後の試験、魔獣導師にとって最も大切なパートナーの魔獣を見つけて契約することがどうしてもクリア出来なかったんです。私が接触しようとすると魔獣の皆は何故か逃げてしまったからなんですけど・・・そのことが原因で追い出されたと思うので、もしこの魔獣と上手く契約できれば、集落に戻ることも許されるかもしれません・・・!そしてジグさんの集落の木属性の変化魔法のことも聞けると思います・・・!!」


「ま、マジか、それは助かる・・・どうか頑張ってやってみてくれ・・・!!」


ジグとニマ、2人はお互いにそれぞれ希望を見えてきて、徐々に重たかった空気が明るくなっていく。


ニマはその魔獣との接触を図ろうとする


しかしーーーー


「ん?あれ??」


先程までジグのそばに居たその魔獣はいつの間にかニマの膝に移動しており頬を擦り付けて好意を示してくる。


「あれ?なんで?私何もしてないのに??」

張り切っていたニマは拍子抜けし、疑問が頭の中を駆け巡る。


「お、おい、それわかんないけど、契約できたりしないのか?好かれてるように見えるし・・・」


「そ、そうですね・・・もしかしたら・・・」


そう言いニマは自身の腕を魔獣の前に持っていき、詠唱を始める。



「ーー秘めたる魔力を有する獣よ、我が魔力を得る代わりに我が道を共に進むかーー」

魔獣は大きく首を縦に振り勢いよくニマの腕にかぶりついた。


「いったっ・・・!!でもこれで・・・」


魔獣はニマの腕から溢れ出る血液を呑み、ニマの血液を受け入れることで双方の間で契約が交わされる。


そして契約によって双方の間にできた魔力の流れによってニマはその魔獣についての微々たる情報を受け取ることが出来た。


「契約できちゃった・・・そっかあなた『ナル』って名前なのね・・・」


その光景を黙って見ていたジグが口を開く。


「え、今ので契約できたのか?じゃあニマ、あんた集落に帰れるんじゃ・・・」


「はい・・・集落に帰ってこのことを伝えたらもしかしたら元通りに戻れるかもです・・・そしてジグさんの集落を襲った人のことも心当たりがないかちょっと聞いてみますね・・・」


それを聞きジグは安堵の表情へと変わる。


「ほんと助かる・・・一週間歩き回ってたけど思ったより早く手がかりが掴めそうで良かったよ・・・」


「はい・・・ジグさんも早く襲った犯人が見つかると良いですね・・・」


そこまで言ってニマの表情は固まった。


このジグという男は犯人を知ったとしたらどうするのか、復讐?殺す?もし本当に自分の姉がやったとしたら自分はどうする?止めれるのか?という今更な疑問が沸いてきた。


「?どうしたニマ」


「あっ、いやなんでもないです・・・」


しかしこの短時間で様々なことが起きた為ニマの脳は休息を求めこれ以上の考える力は残っていなかった。


知る必要はない、そう自分に言い聞かせ休息をとることにした。


「とりあえず・・・ナル、今日からよろしくね・・・?色々迷惑かけると思うけど・・・」


「シャウゥッッ!!」

嬉しそうに鳴き声をあげるナル、鼻息が激しく漏れ本当に嬉しそうにしているのがわかる。


何故ここまで懐かれてるのか疑問がニマの中で残るがこの際考えないことにした。


「なあ、ニマ、じゃあ今日はもう夜遅いからここで休んで明日一緒に集落について行ってもいいか・・・?」


「は、はい!そうしましょう・・・私も疲れましたし・・・」

そういい各々簡単な寝支度をし、大きな樹洞の中で2人と1匹は眠りへと落ちる。


明日起きる事態を知る由もなく・・・

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